公開日:2026年10月6日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
予実管理とは、月ごとに立てた予算と実際の数字を並べて差を測り、その差が生まれた原因を突き止めて翌月の手を決める管理のことです。中小企業なら、試算表とエクセル1枚で今月から始められます。
- 予実管理表は「売上・粗利・固定費・営業利益・月末の預金残高」を軸に、7行ほどに絞れば足ります
- 売上の差異は「数量のズレ」と「単価のズレ」に分けて読みます。合計だけ見ると、値上げで販売数の減少が隠れます
- 銀行は、計画どおりかどうかより「ズレを社長が自分の言葉で説明できるか」を見ています
「予実管理をやれと言われるけれど、うちのような規模で意味があるのか」。そう感じている社長さんは少なくないと思います。検索してみても、上位に並ぶのは会計ソフトや予算管理システムを売る会社の記事がほとんどで、部門が10も20もある会社を前提にした話が続きます。社長と経理担当の2人で回している会社には、そのままでは使いにくいはずです。
この記事では、社長がひとりで数字を見ている会社を前提に、予実管理表に何を並べるか、差異をどう読むか、銀行が予実のどこを見るかを、架空の会社の数字を使って順に説明します。私は元銀行員で法人融資の審査に携わり、いまは中小企業診断士として山梨を中心に財務のご相談を受けています。計画書を「審査する側」にいたときに、計画と実績のズレをどう見ていたかも、そのままお話しします。
予実管理とは何か?予算管理・管理会計とはどう違うのか?
予実管理は「予算」と「実績」を略した言葉で、計画した数字と実際の数字を比べ、差の原因を調べて手を打つところまでを指します。英語の資料では「Budget vs Actual」と書かれることが多い管理です。
似た言葉との関係を整理すると、次のようになります。
| 言葉 | 指す範囲 | 中小企業での具体例 |
| 管理会計 | 経営判断のために、社内向けに数字を作って使うことの全体 | 商品別の粗利、損益分岐点、資金繰り表、予実管理など |
| 予算管理 | 予算を立てて、配分して、守らせるまでの一連の管理 | 年間の売上目標と経費枠を決め、月ごとに割り振る |
| 予実管理 | 予算管理のうち、毎月の「予算と実績の比較」から次の手を決める部分 | 月初に先月の試算表と予算を並べ、ズレの理由と来月の打ち手を決める |
つまり予実管理は、管理会計という大きな箱の中の、毎月まわす部分です。管理会計の全体像は「管理会計とは」で整理しています。ここから先は、毎月の比較と打ち手の決め方に絞ってお話しします。
中小企業に予実管理は「意味がない」のか?
結論から言うと、意味がなくなるのは「比べて終わる」ときです。表を作り、達成率を眺めて、「今月は96%か、まあまあだな」で閉じてしまう。これを続けると、確かに手間だけが残ります。
ある会社の社長は、以前から生産性の指標を毎月計算していたのに、会議で月に一度、数分見せられて終わっていたと話していました。数字はあっても、誰の目標にも行動にもつながっていなかったわけです。予実管理も同じで、意味が出るのは、ズレの原因が一行の言葉になり、それが翌月の行動に変わったときです。たとえば「売上が4%足りない」で止めずに、「値上げで客単価は上がったが、販売数が7.5%減った。来月は既存客への案内を増やす」まで書ければ、予実管理は役に立っています。
もうひとつ、中小企業で予実管理が続かない理由のひとつに、仕組みより先に「何を測るか」の合意がないことがあります。ある製造業で管理会計の導入を相談されたとき、帳票やシステムから入るのはやめて、役員の方々に向けた勉強会から始めることにしました。測る意味に役員が納得していないと、どんな表を用意しても空欄が埋まらないからです。社長ひとりの会社でも同じで、「この数行だけは毎月見る」と自分で決めるところが出発点になります。
予実管理表には何を並べればいいのか?(実物の見本)
まず見本をお見せします。山梨で菓子の製造と店頭販売をしている会社を想定した、架空の数字です。単位は千円で、10月の1か月分を並べています。
| 項目 | 予算 | 実績 | 差異 | 達成率 | ズレの理由(一行) |
| 売上高 | 10,000 | 9,620 | ▲380 | 96.2% | 値上げで単価は上がったが、販売数が600個少ない |
| 売上原価 | 4,000 | 4,060 | +60 | — | 原材料の仕入値が上がり、原価率が40.0%→42.2% |
| 売上総利益(粗利) | 6,000 | 5,560 | ▲440 | 92.7% | 販売数の減少と原価率の上昇が重なった |
| 人件費 | 3,000 | 3,050 | +50 | — | 繁忙期の残業代 |
| その他の固定費 | 2,000 | 1,930 | ▲70 | — | 広告の出稿を1回見送った |
| 営業利益 | 1,000 | 580 | ▲420 | 58.0% | 粗利の不足がほぼそのまま利益に響いた |
| 月末の預金残高 | 12,000 | 10,900 | ▲1,100 | — | 利益の不足420に加え、取引先1社の入金が翌月にずれた680 |
見ていただきたい点は三つあります。
一つ目は、行を絞っていることです。試算表には勘定科目が50も60も並びますが、毎月の予実で見る行はこの7行で足ります。科目を細かくするほど差異の行が増え、どれが大事なのか分からなくなります。差異が大きく出た行だけ、あとから科目の内訳を開けば十分です。
二つ目は、一番右に「ズレの理由」の列を置いていることです。予実管理表の価値は、数字の列よりこの列にあります。理由が書けない行は、まだ原因が分かっていないということなので、翌月までに調べることがひとつ見つかったことになります。
三つ目は、損益の下に月末の預金残高を一行足していることです。利益は予算に近くても、入金のずれで預金が足りなくなることはよくあります。この見本でも、営業利益の不足は420千円なのに、預金は1,100千円少なくなっています。損益だけの予実管理表では、この差に気づけません。月ごとの入出金まで追いたい場合は「資金繰り表の作り方」の表と並べて使ってください。
ステップ1 年間の予算を、月別に割り振るには?
予実管理は、比べる相手の予算が月別になっていないと始まりません。年間の売上目標を12で割っただけの予算だと、季節の波がそのまま差異に出てしまい、毎年同じ月に「未達」が並びます。
月別に割るときは、前年の月別実績の比率を使うのがいちばん手堅い方法です。前年の10月が年間売上の9%だったなら、今年の年間予算の9%を10月に置きます。そのうえで、値上げや新商品など今年だけの事情を足し引きします。
売上は「数量×単価」で組んでおくと、あとで差異を分けるときに役立ちます。見本の会社なら、10月の予算は「8,000個×1,250円=10,000千円」です。売上の根拠を数量と単価に分けて置く考え方は「収支計画書の書き方」でも詳しく説明しています。
予算の水準は、強気の目標とは分けておくのが実務的です。社内で掲げる目標と、予実管理で比べる予算が同じ数字だと、毎月「未達」が続いて、表を見るのが嫌になります。私は創業計画をご一緒に作るとき、社長の目標としての強気の版と、金融機関に出す固めの版を別に作っています。銀行に計画を出している会社なら、予実で比べる相手はその固めの計画にしておくと、毎月の表がそのまま銀行への説明資料になります。
ステップ2 実績の数字は、いつ・どこから集めるのか?
実績は、会計ソフトや税理士事務所から届く月次の試算表から取ります。予実管理のために別の集計をする必要はありません。
大事なのは、試算表が締まる日を決めることです。予実管理が止まっている会社の多くは、表の作り方より手前で止まっています。ある会社では、クラウド会計を入れていたのに、入力が数か月分たまっていて、月次の数字がそもそも出ていませんでした。会計ソフトの設定が悪いのではなく、「月末から何日までに、誰が何を入力するか」が決まっていなかったのが原因です。まず「翌月10日までに前月分の入力を終える」のように期限を決め、税理士事務所とも共有してください。予実の表はそのあとで十分です。
数量の実績(販売個数、客数、受注件数など)は会計ソフトには出てきません。レジや販売管理の数字から、売上と同じ月の分を1つだけ拾っておきます。
ステップ3 差異は、どうやって数量と単価に分けるのか?
ここが予実管理の中心です。見本の会社の売上は、予算10,000千円に対して実績9,620千円、差異は▲380千円でした。達成率96%なら悪くない、と読みたくなります。ところが、数量と単価に分けると景色が変わります。
| 区分 | 計算式 | 見本の会社 |
| 単価のズレ(価格差異) | (実績単価−予算単価)×実績数量 | (1,300円−1,250円)×7,400個=+370千円 |
| 数量のズレ(数量差異) | (実績数量−予算数量)×予算単価 | (7,400個−8,000個)×1,250円=▲750千円 |
| 合計 | 単価のズレ+数量のズレ | +370千円+▲750千円=▲380千円 |
合計だけ見ると▲380千円ですが、中身は「値上げで370千円増えた」と「販売数が600個減って750千円失った」の足し算です。値上げの効果が、販売数の減少を覆い隠していたということになります。このまま値上げの効果だけを見て安心すると、翌月以降も数量の減少が続いたときに手遅れになります。値上げと客離れの関係は、コラム「値上げしたいけど客離れが怖い社長へ」で詳しく書いています。
同じ考え方は原価にも使えます。予算の原価率40%を実績の売上に当てはめると、原価は3,848千円のはずでした。実績は4,060千円なので、212千円は予算の原価率で見込んだより多くかかった分です。見本の会社では、その主な理由が材料の仕入値の上昇でした。予算の原価4,000千円と比べた差異は+60千円しかありませんが、売上が減った分で原価の上昇が目立たなくなっていただけです。
ステップ4 差異の理由と打ち手は、どう書き残すのか?
差異が分かったら、予実管理表の右端の列に理由を一行で書き、その下に翌月の打ち手を一つだけ書きます。見本の会社なら、次のようになります。
- 理由: 値上げ後、販売数が減っている(▲600個)
- 打ち手: 11月は既存客向けの案内を月2回に増やし、販売数を週ごとに数える
- 確認: 12月初めの予実で、販売数が10月より戻っているかを見る
理由が書けない差異があったときは、無理に数字の帳尻を合わせないでください。以前、粗利がマイナスになっている会社の計画づくりを頼まれたことがあります。本来は粗利がマイナスになるはずのない商売で、なぜそうなるのかが特定できていませんでした。私はそのとき、原因が分かるまでは計画を作らないと判断しました。原因が分からないまま数字を組んでも、半年後に同じズレが出るだけだからです。予実管理でも同じで、「原因不明」と正直に書き、翌月までに調べるほうが、それらしい理由を書くより役に立ちます。
年度の途中からは、残りの月の見込みを足した「着地見込み」も一行加えると、決算の数字が早めに読めます。累計で予算に届かないと分かった時点で、銀行への説明や納税資金の準備を前倒しできます。
差異はどこまで細かく追えばいいのか?
すべての差異を調べようとすると、予実管理そのものが続かなくなります。追う差異は、金額か率のどちらかが大きいものに絞ってください。
始めやすい目安の一例は、「予算比で5%以上ずれた行」か「営業利益の1割以上の金額がずれた行」のどちらかに当たるものだけ理由を書く、というルールです。見本の会社なら営業利益の予算が1,000千円なので、100千円以上ずれた行が対象になります。売上・粗利・営業利益・預金残高の4行が当たり、売上原価(+60千円・1.5%)、人件費(+50千円・1.7%)、その他の固定費(▲70千円・3.5%)は今月は見送ります。ただし売上原価のように、売上の増減で差異が打ち消されやすい行は、金額でなく原価率でも確かめてください。ステップ3で見たとおり、見本の会社では原価率が2.2ポイント上がっていました。この線は会社の規模と粗利率で変わりますので、3か月ほど回してみて、多すぎれば上げ、少なすぎれば下げてください。
一方で、同じ方向のズレが3か月続いた行は、金額が小さくても理由を書きます。毎月少しずつ増えている経費は、1か月単位では目立たず、年間で見ると大きな額になっているからです。
銀行は、予実のどこを見ているのか?
元銀行員として言えば、銀行は「計画どおりに進んでいるか」だけを見ているわけではありません。むしろ計画とのズレを、社長が自分の言葉で説明できるかを見ています。
銀行は、事業計画を受け取ったあとも、決算の途中で試算表の提出を求めることがあります。たとえば計画より売上が少なくても、「値上げで販売数が減ったので、既存客向けの施策を11月から始めています」と説明できれば、計画を下回ったこと自体で評価が大きく下がるとは限りません。逆に、計画を大きく下回っているのに理由を聞いても答えが返ってこなければ、審査する側は次の計画も信用しにくくなります。金融機関に出す計画は厳しめの数字にしておき、「厳しめに見ていますが、それでも回せます」と言える状態を作っておくと、予実の説明もしやすくなります。銀行が気にしているのは、ズレそのものより、経営者がズレに気づいて手を打てる会社かどうかです。
この考え方は、金融機関側のルールにも表れています。日本商工会議所と全国銀行協会が事務局を務めた研究会がまとめた「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者保証に頼らない融資を受ける側の取り組みとして、事業計画や業績見通しと「その進捗状況」について、金融機関から求められたときに正確で信頼性の高い情報を開示・説明することを挙げています(4(1)③)。毎月の予実管理表は、この「進捗状況」をそのまま説明できる資料です。経営者保証の外し方は「経営者保証を外すには」で詳しく説明しています。
経営改善計画を銀行に出している会社なら、なおさらです。計画を出したあとは、計画と実績の比較を定期的に報告するのが一般的で、そのときに使うのも予実管理表です。計画の作り方は「経営改善計画書の書き方」をご覧ください。
エクセルと予実管理システム、どちらで始めるべきか?
社長と経理担当の数人で数字を見ている会社なら、エクセルかGoogleスプレッドシートで十分です。部門や拠点が増えて、複数の担当者が同じ表に入力するようになったら、システムを検討すれば間に合います。
| 比べる点 | エクセル・スプレッドシート | 予実管理システム |
| 向いている会社 | 部門が少なく、数字を見る人が数人 | 部門・拠点が多く、入力者が多い |
| 始めるまでの時間 | 見本の7行なら半日で作れる | 選定・設定・会計ソフトとの連携に時間がかかる |
| 費用 | 手元のソフトで始められる | 月額の利用料がかかるものが多い |
| 弱いところ | 入力者が増えると版が混ざる・計算式が壊れる | 入力のルールが決まっていないと、システムを入れても数字が埋まらない |
システムを先に入れて失敗する会社は、たいていステップ2の「入力の期限」が決まっていません。システムは実績の集計を楽にしてくれますが、試算表が締まらない会社の数字を締めてはくれません。まずエクセルで3か月まわして、どの数字を毎月見るかが固まってから道具を選ぶのが、遠回りに見えていちばん早い順番です。
毎月の予実を1画面で見たくなったら、それが経営ダッシュボードの入口になります。何を画面に置くかは「経営ダッシュボードの作り方」で説明しています。
この記事の次に頼める具体的な相談
予実管理表は、最初の1枚を作るところと、3か月ほど続けて差異を読む癖がつくまでのところで止まりやすい作業です。当社の経営可視化・伴走コンサルでは、たとえば次のようなご相談をお受けしています。
- 年間の目標や銀行に出した計画を、月別・数量×単価の予算に落とし込む
- いまの試算表から、毎月の予実管理表が自動で埋まる形のエクセルを作る
- 月に一度、予実管理表を一緒に見て、差異の理由と翌月の打ち手を決める
- 銀行に出す予実の報告資料を、説明の順番まで含めて整える
「予算がまだない」「試算表が毎月出てこない」という段階でも構いません。どこから手をつけるかを決めるところからご一緒します。ご相談はお問い合わせフォームからどうぞ。初回のご相談は無料です。
予実管理についてよくある質問
予実管理は、社内の誰が担当すればいいですか?
数字を集めて表を埋めるのは経理担当や税理士事務所に任せて構いませんが、差異の理由と打ち手を決めるのは社長の仕事です。理由の列まで経理担当に任せると、数字の説明はできても、翌月の行動が決まりません。社長と経理担当の2人で、月初に30分だけ表を一緒に見る時間を固定するのが続けやすい形です。
予算を立てていない会社は、何と比べればいいですか?
まずは前年の同じ月の実績と比べる「前年同月比」から始めてください。前年同月と比べるだけでも、季節の波を除いた伸び縮みが分かります。3か月ほど続けると、自社の数字の動き方がつかめてくるので、そこで来期の月別予算を作ると現実的な数字になります。
予実管理と進捗管理は、どう違いますか?
進捗管理は、作業や工程が予定どおり進んでいるかを見るもので、主に日付や作業量を追います。予実管理は、お金の数字が計画どおりかを見るものです。工事業や受注生産のように、工程の遅れが売上の計上時期を左右する業種では、両方を並べて見ると差異の理由がはっきりします。
予実管理は月次ではなく週次でやるべきですか?
損益の予実は月次で十分です。試算表は月単位で締まるので、週次で損益を比べようとすると集計の手間が増えるだけになりがちです。週次で追うなら、販売数や受注件数のように毎日数えられる数量の指標に絞り、月次の予実でお金の数字に結びつけるのが実務的です。
赤字の月が続いていても、予実管理をする意味はありますか?
あります。赤字が続いているときほど、どの行がどれだけ予算からずれているかを数字で押さえておく必要があります。銀行に返済条件の相談をするときも、赤字の原因と改善の見込みを予実の数字で説明できるかどうかで、話の進み方が変わります。資金繰りが苦しい場合の手順は「資金繰りが厳しいときにやるべきこと」にまとめています。
監修:池田哲郎。八十二銀行で法人融資の審査・経営改善支援に従事し、事業計画や決算を「審査する側」として100件超を見てきた経験を持つ。現在は中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨県で融資・事業計画・経営の見える化の支援を行う。本記事の数値例は説明のための架空の想定です。金融機関の情報開示に関する記述は、経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(2026年10月6日確認)に基づきます。
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