中小企業の経営者から、「中期経営計画をつくりたいが、何から手をつければいいかわからない」「一度つくったが、結局“絵に描いた餅”で終わってしまった」というお声をよくいただきます。

中期経営計画とは、3〜5年後に会社をどうしたいかという理想像と、そこへ至る道筋を、戦略と数字で示した計画のことです。作り方を解説する記事は世の中にたくさんありますが、私がこの記事でお伝えしたいのは、「金融機関の融資審査に通り、補助金申請にもそのまま使え、しかも現場で回る」計画の作り方です。

私は元銀行員として長く法人融資の審査を担当し、数えきれないほどの事業計画書を「審査する側=お金を貸すかどうかを判断する側」として見てきました。その視点から、通る計画と落ちる計画の差を交えてお話しします。なお、融資と補助金では審査の基準は違いますが、「数字に根拠があるか」を問う目はどちらにも通じます。

なぜ中期経営計画をつくるのか

中期経営計画は、社内の方向づけだけのものではありません。中小企業にとっては、大きく3つの場面で実利に直結します。

一つは融資です。金融機関は、過去の決算だけでなく「これからどう返していくのか」を見ます。中期計画は、その返済原資の説明そのものになります。次に補助金。ものづくり補助金や事業承継・M&A補助金など、多くの制度で数年分の事業計画と数値目標の提出が求められますが、中期計画があれば申請のたびにゼロから書かずに済みます。そして社内共有です。社長の頭の中にある方針を、数字と言葉にして社員へ渡す手段になります。

逆に言えば、中期計画は「融資・補助金・承継のたびに使い回せる経営の土台」です。一度しっかりつくる価値は十分にあります。

中期経営計画の作り方【5ステップ】

大枠は次の5ステップです。難しく考えず、順番に埋めていきます。

① 現状分析は「一覧表」で終わらせない

まず自社の強み・弱み、外部環境の機会・脅威を整理します。ただし、SWOTを書き出して満足してしまう会社がとても多い。大事なのは、強みと機会を掛け合わせて「具体的な打ち手」まで落とすことです。やり方は現場で機能させるクロスSWOTの作り方で詳しく解説しています。

② 経営理念と3〜5年後のビジョンを描く

「何のためにこの事業をやるのか」という理念を再確認し、3〜5年後の到達点(売上規模・事業構成・組織の姿)を言葉にします。ここが曖昧だと、以降の数字に芯が通りません。

③ 数値目標は固定費から逆算する

売上目標を「なんとなく前年比110%」で決めていないでしょうか。おすすめは、固定費から「最低いくら売れば会社が回るか(生存売上)」を逆算してから、上乗せの目標を載せる方法です。詳しくは固定費から逆算する「生存売上」の出し方をご覧ください。

④ 利益計画は「いくらで売るか」まで決める

売上目標は、客数×単価に分解できます。とくに単価(値決め)は利益を最も大きく左右するにもかかわらず、コスト積み上げで何となく決めている会社が少なくありません。考え方は「払ってもいい金額」から逆算する値決めの話で整理しています。

⑤ 行動計画と財務計画に落とす

数値目標を「誰が・いつ・何をするか」の行動計画に分解し、最後に資金繰り・設備投資を含む財務計画へまとめます。財務計画の具体的な組み方は創業者でも作れる財務モデルの作り方で手順を追って解説しています。ここまで来て、ようやく計画は“動くもの”になります。

3年分の数値計画はこう見せる(製造業の想定例)

言葉で説明するより、実際の数字を一枚見ていただくのが早いでしょう。例として、従業員10名程度の製造業を想定します(特定の実在企業ではありません)。中期経営計画の数値計画は、最低でも「売上・粗利・固定費・返済」の4行がつながって見えることが大切です。次のような簡易版でかまいません。

項目(万円)1年目2年目3年目
売上高18,00018,90019,800
粗利(粗利率30%)5,4005,6705,940
固定費(人件費・地代等)4,6004,7004,800
営業利益8009701,140
返済原資(利益+減価償却)1,1001,2701,440
借入金の元金返済600600600

この一枚で私が伝えたいのは、数字の大きさではなく「つくり方の作法」のほうです。

まず、売上は年5%程度の緩やかな伸びに抑えています。 金融機関へ出す数字は、固めに置くのが鉄則です。前年比120%のような強気の売上を並べると、審査する側は「達成できなかったときにどうするのか」をまず心配します。控えめでも「この水準なら確実に返せます」と言い切れる計画のほうが、はるかに信用されます。

次に、返済原資(利益+減価償却)が元金返済を上回っているか。 ここが数値計画の心臓部です。上の例では3年とも返済原資が元金返済(年600万円)を大きく上回っており、「返せる会社」であることが数字で示せています。逆にこの2行が接近している、あるいは逆転している計画は、それだけで融資の土俵に乗りません。

そして実務でおすすめしているのが、楽観・現実・保守の3シナリオを併記することです。上の表は「現実」の1本ですが、これに「受注が想定通り伸びた場合(楽観)」と「主力取引先の発注が1割減った場合(保守)」を添えておく。1本の右肩上がりより、幅を持って見せた計画のほうが、むしろ数字の実現性を疑われにくいのです。

言葉だけでは伝わりにくいので、保守シナリオも数字にしてみましょう。上の「現実」の表をベースに、主力取引先の発注が1割減り、売上高が5%落ちた場合を置いてみます(同じ想定例からの試算です)。

項目(万円)1年目2年目3年目
売上高(5%減)17,10017,95518,810
粗利(粗利率30%)5,1305,3875,643
固定費(人件費・地代等)4,6004,7004,800
営業利益530687843
返済原資(利益+減価償却)8309871,143
借入金の元金返済600600600

売上が5%落ちても、返済原資は3年とも元金返済(年600万円)を上回っています。ここが見せどころで、「主力先の受注が1割減っても、返済は止まりません」と数字で言い切れる。この保守の一枚を添えられる会社は、楽観の1本だけを出す会社より、審査する側がずっと安心して読めます。数値計画そのものの書き方は収支計画書の書き方【公庫様式対応】で様式に沿って解説しています。

審査側から見て、落ちる計画の3パターン

同じ落ちる計画でも、審査する側から見ると「どこを見て一発でわかるか」が決まっています。私が融資審査で計画書を受け取ったとき、短時間で見切りをつけていた3つの型を、そのままお伝えします。

パターン①:数字に根拠がない。 これは売上計画の「伸び率の欄」を見れば、ほぼ一目でわかります。前年比の伸びだけが並び、その根拠が本文のどこにも書かれていない。「なぜ来期は1割伸びるのですか」と一問投げて答えが返ってこなければ、その計画は願望です。逆に「新設備で生産能力が2割上がり、既存取引先A社から追加受注の内示がある」と一行あるだけで、数字の見え方はまるで変わります。

パターン②:右肩上がりの楽観しかない。 グラフがきれいな一本の直線で上を向いている計画ほど、私は慎重に読みました。景気の波も、繁忙・閑散の差も、取引先の都合もない世界は、現実には存在しないからです。先ほど触れた3シナリオが無く、「うまくいく前提」だけで組まれた計画は、達成できなかったときの手当てが見えず、かえって信用を落とします。

パターン③:現状分析と数値が分断している。 これは計画書の前半(現状分析・SWOTなど)と後半(数値計画)を並べて読むと、すぐにわかります。前半で「価格競争が激しい」と書いてあるのに、後半でしれっと粗利率が改善していく。前半で挙げた課題や強みが、後半の数字に一切効いていない。この「前半と後半の言葉がつながっていない」状態が、審査側にいちばん見抜かれます。現状分析を打ち手に落とす手順は現場で機能させるクロスSWOTの作り方で具体的に説明しています。

この3つを裏返せば、そのまま「通る計画」の条件になります。数字に根拠がある、控えめに見ても返済できる、現状分析から数値目標までストーリーが一本につながっている——この3点は、そのまま補助金の審査でも通用します。詳しくは補助金の採択率を上げるために申請前にやるべき3つのこと、融資の視点は元銀行員が教える日本政策金融公庫の審査もあわせてご覧ください。

「絵に描いた餅」にしないために

計画は、つくった瞬間から古くなります。大切なのは月次でふり返る仕組みです。計画の数字と実績を毎月並べ、ズレた理由を確認し、必要なら手を打つ。この“回す”工程がないと、どんなに立派な計画も飾りで終わります。

そのために、まず数値目標を「誰が・いつまでに・何を」の行動計画へ割り付けます。ここまで具体にして、はじめて計画は動き出します。次のような1行単位で十分です(想定例)。

誰がいつまでに何を
営業リーダー第2四半期まで既存取引先A社へ新ラインの提案・見積を提出する
製造リーダー上期中新設備を稼働させ、歩留まりを安定させる
社長毎月末資金繰り表を更新し、金融機関へ進捗を共有する

そのうえで、月次レビューは欲張らないのがコツです。毎月見るのは3つだけ——売上・粗利率・現金残高。この3つを計画値と並べ、ズレていれば理由を一言だけ添える。30分もあれば回せる会議で十分です。数字を全部追おうとすると必ず続かなくなるので、まずはこの3点に絞ってください。最初から完璧を目指さず、1ページの簡単な計画から始めて、毎月育てていくくらいでちょうどよいのです。

まとめ

中期経営計画は、融資・補助金・社内共有に効く「経営の土台」です。5ステップで現状から数字・行動まで落とし、根拠のある保守的な数字でストーリーをつなぐことが、銀行にも補助金審査にも通る計画の条件です。そして、つくって終わりにせず月次で回すこと。山梨県内で使える補助金を具体的に探したい方は、山梨県の中小企業が使える補助金一覧もご活用ください。


中期経営計画は、一人で抱え込むほど「絵に描いた餅」に近づきます。数字の置き方や、金融機関・補助金への見せ方で迷われたら、お気軽にご相談ください。山梨を拠点に、元銀行員・中小企業診断士として、御社の決算と現場に合わせて、審査に通る一枚から一緒に組み立てます。

よくある質問

中期経営計画は何年分つくればよいですか? 一般的には3〜5年分です。中小企業では、まず3年分を目安に、毎年見直して1年ずつ延ばしていくと運用しやすくなります。

中期経営計画と単年度の事業計画は何が違いますか? 中期経営計画は3〜5年の方向性と数値目標を示すもので、単年度計画はそれを1年分に具体化したものです。中期計画を上位に置き、毎年の事業計画へ落とし込みます。

融資や補助金の申請にそのまま使えますか? 土台として使えます。ただし、補助金は制度ごとに様式や審査項目が決まっているため、中期計画の数字を制度の様式に合わせて組み直す必要があります。

計画づくりは誰に相談すればよいですか? 顧問税理士のほか、認定経営革新等支援機関や中小企業診断士が相談先になります。融資・補助金まで見据えるなら、金融機関対応の経験がある支援者だと話が早く進みます。