経営の現場に入らせていただくと、多くの会社で「SWOT分析、前にやったことありますよ」という言葉を聞きます。ところが、出てきた紙を見せていただくと、強み・弱み・機会・脅威が四角い枠に箇条書きされた一覧表で止まっている。そこから先の「で、何をするのか」が書かれていないのです。

私は元銀行員(法人融資担当)で、現在は中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、補助金や融資の事業計画づくりを現場でお手伝いしています。本コラムでは、SWOT分析が「やっただけ」で終わる理由と、それを打ち手に変えるクロスSWOT(TOWS分析)の作り方を、理論と現場の両面から整理します。

SWOT分析とは何か(30秒で確認)

SWOT分析とは、自社の状況を次の4象限で棚卸しするフレームワークです。

  • Strength(強み):自社が持つ内部の優位性
  • Weakness(弱み):自社が抱える内部の課題
  • Opportunity(機会):追い風となる外部環境の変化
  • Threat(脅威):逆風となる外部環境の変化

強み・弱みは「内部環境」、機会・脅威は「外部環境」です。ここまでは多くの経営者がご存じで、実際に書き出すこともできます。問題は、この4つを並べただけでは戦略にならないという点にあります。

「一覧表で終わる」3つの典型パターン

現場で繰り返し見てきた、SWOTが機能しない原因は大きく3つです。

① 強みが「自称」になっている

「うちの強みは技術力です」「対応の早さです」——よく出てくる言葉ですが、これは多くの場合競合と比べた相対評価になっていません。経営戦略論には、強みを「価値があるか/希少か/模倣困難か/組織に根づいているか」で吟味するVRIO分析という考え方があります。難しく考える必要はなく、現場では「それ、隣の同業さんも同じこと言いませんか?」と一つ問うだけで、本当の強みかどうかがかなり見えてきます。

② 抽象度が高すぎて打ち手に落ちない

「機会:高齢化」「脅威:人手不足」。間違いではないのですが、抽象的すぎて明日の行動になりません。銀行で何百件もの事業計画を見てきた経験から言うと、審査する側が読みたいのは「自社にとって」その変化が何を意味するのかです。「高齢化」ではなく「商圏の○○世代が増え、配達ニーズが伸びている」まで具体化して初めて使えます。

では、その具体は、どこで拾えばいいのか。難しく考えず、身近な3つで足ります。一つ、お客さんに「最近、前より増えた注文は何ですか」と聞く。現場の変化は、たいてい受注の形で最初に現れます。二つ、業界団体の統計や中小企業白書で、自分の商圏の人口や消費の動きを裏取りする。三つ、仕入先から届く値上げの通知に目を通す。これは原材料高騰という脅威が、いちばん早く目に見える形で届く合図です。この3つを回すだけで、抽象語だった機会・脅威が「自社にとって」の具体に変わっていきます。

③ 4象限を埋めた時点で満足してしまう

これが最大の落とし穴です。SWOTはあくまで材料の棚卸しであって、料理そのものではありません。料理にあたる工程が、次に説明するクロスSWOTです。

クロスSWOT(TOWS)分析の作り方——4つの掛け算

クロスSWOT分析とは、棚卸しした4要素を掛け合わせて具体的な戦略を導き出す手法です。TOWS分析とも呼ばれます。組み合わせは次の4つです。

掛け算問い戦略の方向性
強み × 機会(積極化)強みを機会にぶつけたら何ができるか最優先で攻める領域
強み × 脅威(差別化)強みで脅威をどう乗り切るか競合と差をつける守り
弱み × 機会(改善)弱みを補えば機会をつかめるか投資・補強する領域
弱み × 脅威(防衛・撤退)最悪の事態をどう避けるかリスク回避・縮小

手順はシンプルです。

  1. SWOTの4象限を、それぞれ3〜5個まで具体的に書き出す
  2. 上の表の4パターンで、要素同士を実際に掛け合わせて文章にする
  3. 出てきた打ち手を「強み×機会」から優先的に並べる
  4. 各打ち手に「誰が・いつまでに・いくらで」を付ける

特に中小企業では、経営資源が限られています。すべてに取り組むことはできないので、「強み×機会」を一点突破の主戦略に据えるのが現場での鉄則です。ここが、総花的なSWOTと、勝てるSWOTの分かれ道になります。

現場でのクロスSWOT:菓子製造業の想定例

手順だけでは、なかなか実感が湧かないものです。ここからは通しで一つ、具体的に見ていきます。例として、山梨で地元産フルーツの生菓子をつくる菓子製造業(従業員8名)を想定します(特定の実在企業ではありません)。

① まず4象限を、各3個ずつ具体的に書き出す

いきなり戦略を考えず、材料を並べます。抽象語で止めず、「自社にとって」の言葉まで下ろすのがコツです。

象限書き出した内容(各3個)
強み(S)地元産の桃・ぶどうを使う生菓子の製造ノウハウ/地元スーパー・観光土産店との長年の取引/取引先の要望に合わせて少ロットで作り分けられる小回り
弱み(W)日持ちが短く遠方へ出荷しにくい/職人の高齢化と後継者の不在/ネット販売・情報発信が弱い
機会(O)観光客の回復で山梨土産の需要増/ふるさと納税・ECギフト市場の拡大/素材が明確な菓子への健康志向
脅威(T)砂糖・バター・果物など原材料価格の高騰/大手メーカーの低価格な土産菓子/人手不足による製造能力の頭打ち

② 「それ、隣の同業さんも同じことを言いませんか?」で自称を剥がす

強みの1行目、「地元産フルーツを使っている」。これを強みに挙げる菓子屋さんは、山梨には珍しくありません。そこで私はいつもの問いを投げます。「それ、隣の同業さんも同じことを言いませんか?」。社長はしばらく考えて、「たしかに、桃やぶどうを使う店は多いね」と。

そこでもう一歩、「では、他店がまだやっていないことは?」と踏み込みます。出てきたのが、「取引先スーパーの求めに応じて、期間限定品を少ロットで作り分けている小回り」でした。これは大手にも、同じ地元の他店にも簡単には真似できない。ここで初めて、自称の強みが本当の強みに変わりました。強みの棚卸しは、この「一段掘る」問いがあるかないかで、質がまるで変わります。

③ 「強み × 機会」を一文の打ち手にする

本物の強みが見えたら、機会に掛け合わせます。「少ロットで作り分けられる小回り」(強み)を、「ふるさと納税・ECギフト市場の拡大」(機会)に掛ける。すると、「季節ごとに山梨産フルーツの限定ギフトを小ロットで企画し、ふるさと納税の返礼品として月替わりで出す」という一点突破の打ち手が見えてきます。「日持ちの短さ」という弱みは、冷凍やチルドでの出荷体制づくり(弱み×機会の改善テーマ)として、別に持っておきます。

④ 「誰が・いつまでに・いくらで」の1枚にする

打ち手は、担当と期限と金額を付けて初めて動きます。

打ち手誰がいつまでにいくらで
季節限定フルーツギフトの企画・試作社長+製造リーダー3か月以内試作・パッケージ 30万円
ふるさと納税ポータルへの返礼品登録事務担当4か月以内撮影・登録 10万円
冷凍・チルド出荷体制の整備製造リーダー6か月以内冷凍設備・資材 80万円

ここで一つ、攻めと同じくらい大事なのが「弱み×脅威」の目配りです。この菓子屋さんでいえば、「職人の高齢化」(弱み)に「人手不足による製造能力の頭打ち」(脅威)が重なります。ここで無理に数を追えば、いちばん腕のいい職人さんが倒れた瞬間に、すべてが止まりかねない。だから打ち手は攻めではなく守りに寄ります。採算の低い定番品は思い切って絞り込み、下ごしらえなど一部の工程は外注や機械に任せて、限られた職人の手を主力の限定ギフトに集中させる。そういう縮小・選択の判断です。どの品目をどこまで残すか、撤退や縮小の線の引き方は赤字事業を畳むタイミングの物差しで数字の物差しごと解説しています。

ここまで来ると、SWOTは「やっただけの一覧表」ではなく、明日から動ける計画になっています。この4象限と打ち手の1枚は、そのまま中期経営計画の土台になります。数値計画への落とし方は元銀行員が教える中期経営計画の作り方を、設備投資をともなう場合の補助金活用は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金をあわせてご覧ください。

補助金・融資の事業計画にそのまま効く

クロスSWOTが優れているのは、そのまま事業計画書のストーリーになることです。

ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金の審査では、「自社の強みを、外部環境の変化(機会)にどう接続し、何に投資するのか」という筋道が評価されます。これはまさに「強み×機会」の掛け算そのものです。銀行員時代を振り返っても、稟議が通りやすかったのは決まって後者でした。思いつきの設備投資ではなく、自社分析から一本の筋で「だからこの投資」まで説明できる計画のほうが、審査ではやはり強いのです。

逆に言えば、クロスSWOTを飛ばして「流行っているからAIを導入したい」と書いた計画は、根拠が弱く見えてしまう。補助金の採択率や融資の通過率を上げたい方は、まずこの掛け算を一枚にまとめることをおすすめします。

補助金の採択率を上げる準備については、補助金の採択率を上げるために、申請前にやるべき3つのこともあわせてご覧ください。

よくある質問

Q. SWOT分析とクロスSWOT分析の違いは?

SWOT分析は強み・弱み・機会・脅威を棚卸しするところまで、クロスSWOT分析はそれらを掛け合わせて具体的な戦略に変換するところまでを指します。SWOTは材料、クロスSWOTは料理だとイメージすると分かりやすいです。

Q. 分析は誰とやるべき?

経営者お一人で完結させず、現場を知る社員を巻き込むことをおすすめします。強みや機会は、案外、社長より現場の従業員のほうが具体的に語れることが多いからです。第三者の視点が欲しい場合は、認定支援機関や中小企業診断士に同席を依頼するのも有効です。

Q. どれくらいの頻度で見直す?

外部環境(機会・脅威)は変化が速いため、最低でも年1回、できれば経営計画の策定・補助金申請のタイミングで見直すのが理想です。

Q. 補助金の事業計画書にクロスSWOTをどう使う?

多くの補助金では、事業計画書に「自社の現状分析」と「その事業に取り組む理由」を書く欄があります。ここに「強み×機会」の掛け算をそのまま据えると、現状分析から投資までが一本の筋で通ります。審査員が見たいのは、思いつきの投資ではなく、自社分析から導かれた投資だからです。4象限を1枚、掛け算の結論を1枚つくっておけば、様式の違う複数の補助金にも使い回せます。

まとめ

SWOT分析は、4象限を埋めて終わりではありません。

  • 強みは相対評価で、機会・脅威は自社にとっての意味まで具体化する
  • 4要素を掛け合わせて初めて戦略になる(クロスSWOT/TOWS)
  • 限られた資源は「強み×機会」に集中させる
  • そのストーリーは、そのまま補助金・融資の事業計画になる

理論は、現場で使われて初めて意味を持ちます。「分析はしたけれど、打ち手に落ちない」とお感じの経営者の方は、お気軽にご相談ください。御社の強みを、一緒に言語化するところから始めます。