公開日:2026年6月29日 最終更新:2026年8月14日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「創業融資を受けたいが、自己資金はいくら必要なのか」「日本政策金融公庫の審査は何を見られるのか」「一度落ちたら終わりなのか」。創業前の経営者から、最も多くいただくのがこうした不安です。
結論から言えば、創業時の資金調達の中心は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は7,200万円、創業期は原則として無担保・無保証人で利用できます。かつての「自己資金は総額の10分の1以上」という形式要件は撤廃され、公庫は現在、自己資金の額を要件として定めていません。実績としては、公庫の2025年度調査で創業時の資金調達額の平均1,219万円のうち、自己資金279万円(22.9%)・金融機関からの借入827万円(67.9%)で、借入は自己資金のおよそ3倍という平均像でした。ただしこれは結果の平均であって審査の基準ではなく、通るか落ちるかを左右するのは今も自己資金と創業計画書の中身です。
はじめにお断りしておくと、創業融資(=借りるお金)と補助金(=返済不要の給付)は別物です。「創業融資は返済不要」という誤解をときどき耳にしますが、融資は当然ながら返済が必要です。この記事は前者、つまり日本政策金融公庫からの創業融資を、元銀行員として融資審査を担当してきた「審査する側」の視点から、通すための実務に絞って解説します。山梨県で創業する方に向けた地元の話も最後に添えます。
なお、本記事は制度・必要書類・創業計画書の書き方といった申請手続きの全体像をまとめた網羅ガイドです。審査で落ちる人の共通点と、通過率を高める具体的な対策は、姉妹記事公庫の融資審査に落ちる人の共通点と5つの対策で深掘りしています。
創業融資とは──日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」
創業融資とは、これから事業を始める方や、創業して間もない方が、開業資金や当面の運転資金を借り入れる融資の総称です。民間銀行はまだ実績のない創業者への融資に慎重なため、創業期は政府系金融機関である日本政策金融公庫が中心的な選択肢になります。
「新創業融資制度」は廃止されています(よくある誤解)
かつて公庫の創業融資の代名詞だった「新創業融資制度」は、2024年3月31日をもって取扱いが終了(廃止)しました。現在は「新規開業・スタートアップ支援資金」(旧・新規開業資金)に引き継がれています。ネット上には旧制度を前提にした古い解説も多く残っていますので、情報の日付に注意してください。
読んでいる記事が今の制度に追いついているかは、この2024年3月の廃止に触れているかどうかで、ほぼ見分けられます。「自己資金は創業資金総額の10分の1以上が必要」と今も書いている記事は、旧制度の要件をそのまま引き写しているか、名称だけを差し替えて中身を更新していないかのどちらかです。制度名を検索して公庫の公式ページに同じ記述があるかを確かめる、という一手間で、古い前提に引きずられずに済みます。
制度の主な内容(2026年時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方(適正な事業計画の策定・遂行能力が前提) |
| 融資限度額 | 7,200万円。運転資金の内枠上限は、公庫の公式ページには記載がありません(「運転資金は4,800万円まで」と書いている解説記事を見かけますが、公式の制度概要には見当たらない数字です) |
| 返済期間 | 設備資金:20年以内/運転資金:10年以内(いずれも据置期間5年以内) |
| 利率 | 基準利率。女性・若年(35歳未満)・シニア(55歳以上)、認定特定創業支援等事業の証明を受けた方、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて自ら事業計画書を策定した方などは特別利率 |
| 利率の実額 (無担保・税務申告2期未了の場合) | 基準利率 年3.55〜5.25%/特別利率A 年3.15〜4.85%/特別利率B 年2.90〜4.60%/特別利率C 年2.65〜4.35%(令和8年8月3日現在) |
| 担保・保証人 | 希望を聞きながら相談(無担保・無保証人での利用も可能) |
※利率・限度額・要件は改定されることがあります。申込前に必ず公式サイト(日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金)と最新の適用金利をご確認ください。
創業融資の必要書類【ステージ別に整理】
必要書類は「いつ必要か」で整理すると準備がスムーズです。公庫の正式な様式・要否は申込時にご確認いただくとして、一般的な流れは次のとおりです。
申込前に用意するもの
- 創業計画書(公庫所定の様式。最重要。後述)
- 設備の見積書(設備資金を借りる場合)
- 許認可が必要な事業の許認可証(または取得見込みがわかる資料)
- 自己資金を確認できる通帳(コピーではなく原本提示を求められることがあります)
申込時・面談で確認されるもの
- 本人確認書類、(法人なら)登記事項証明書、(個人で前職があれば)源泉徴収票や確定申告書
- 借入があれば返済予定表、住宅ローンや車のローンの状況
- 店舗・事務所の賃貸借契約書(または物件資料)
信用情報(CIC等)は必ず見られます
公庫は申込者の信用情報(CIC等)を必ず照会します。クレジットカードや各種ローンの延滞・債務整理の記録があると、審査に大きく影響します。心当たりがある方は、申込前に自分の信用情報を開示請求して状況を把握しておくのが安全です。CIC・JICC・KSCそれぞれの開示請求の手順・費用と、キズがあった場合の具体的な対処は、姉妹記事の「信用情報を事前に開示請求して確認する」で詳しく解説しています。
創業計画書の書き方──審査の合否はここで決まる
創業融資の審査で最も重要なのが創業計画書です。私が金融機関で融資審査を担当していた経験から言える、評価される書き方のポイントを挙げます。
強みは「主観」ではなく「客観データ」で裏付ける
「頑張ります」「自信があります」「絶対に成功させます」。こうした主観的な言葉は、審査ではほとんど評価されません。強みは客観的なデータや事実で裏付けるのが鉄則です。前職での実績、保有資格、見込み客の数、すでにある取引先や予約状況。具体的な事実があるほど、計画の信頼度は上がります。
数字は必ず「業界平均」と比べる
売上・原価率・人件費比率・利益率といった数字は、必ず業界平均と並べて確認してください。一見「いい数字」でも、業界平均からかけ離れていると、審査側は「この計画は甘いのでは」と疑います。逆に、業界平均を踏まえた現実的な数字は、それだけで説得力を持ちます。
「広告宣伝費ゼロ」の計画は疑われやすい
意外に思われるかもしれませんが、広告宣伝費をかけないビジネスモデルは、かえって金融機関に疑われます。広告費ゼロだと営業利益率が40%を超えることがあり、審査側は「楽観的すぎる」と感じるのです。自分の足で営業する、SNSを自社運用する——そうした方針であれば、「なぜ広告費がかからないのか」を具体的に説明し、集客の裏付けを示してください。
売上は「経路別」に分解して根拠を示す
「月商◯◯万円」と総額だけを書くのではなく、客数×単価、販売チャネル別など、売上を分解してその根拠を示します。分解されていない売上目標は、根拠のない願望に見えてしまいます。創業計画書の数字の作り方は、考え方の土台として中期経営計画の作り方や固定費から逆算する「生存売上」の出し方も参考になります。こうして分解した売上・原価・利益の数字を月単位の表に落とし込んだものが収支計画書、複数年の見通しまで広げたものが財務モデルです。作成手順は収支計画書の書き方、財務モデルの作り方にまとめています。
元銀行員の審査視点──ここで落とす
ここからが、競合のサイトにはあまり書かれていない「審査する側」の視点です。私が融資審査で実際に見ていたポイントをお伝えします。
公庫の融資は「一発勝負」と心得る
覚えておいてほしいのは、公庫への融資申請は一発勝負だということです。「希望額で通らなかったら金額を下げて再審査」という融通が、必ずしも利くわけではありません。提出した計画がそのまま審査の基準になります。だからこそ、最初に出す計画を慎重に組む必要があります。
資金繰り計画の「月末残高」がマイナスにならないか
審査側がまず確認するのは、資金繰りが回るかどうかです。月末の現預金残高が一度でもマイナスになる計画は、その時点で説得力を失います。営業活動による収支がプラスに転じる時期を明示し、そこから無理なく返済が始まる設計にしてください。この確認に使うのが資金繰り表です。作り方とテンプレートは資金繰り表の作り方にまとめています。
「生計費」を甘く見積もっていないか
創業計画でよく見落とされるのが、経営者自身の生活費(生計費)です。売上から経費を引いた残りで生活していけるのか。最低限の生計費を計画に織り込んでいない計画は、現実味に欠けると判断されます。創業初期は、生計費を最低賃金ベースで堅めに見積もるくらいが安全です。
据置期間は「制度の上限」と「現実」を分けて考える
制度上、据置期間は最長5年以内とされています。ただし運転資金については、実務上は据置1年程度が現実的な上限と考えておくほうが計画は組みやすくなります。据置を長く取りすぎた計画は、返済の本気度を疑われることもあります。
公庫の審査で落ちる人には、さらにいくつかの共通点があります。具体的な共通点と対策は、元銀行員が教える日本政策金融公庫の審査──落ちる人の共通点と通るための5つの対策で詳しく解説しています。
創業融資に自己資金はいくら必要か──公庫の実績データで答える
創業融資の相談で、いちばん多い質問がこれです。「自己資金は100万円あるのですが、いくら借りられますか」「自己資金の何倍まで貸してもらえるのですか」。ここは調べるほど混乱しやすいところなので、公庫が公表している数字だけを使って順に整理します。
公庫は「自己資金がいくら必要」という要件を定めていません
まず制度の話です。かつての新創業融資制度には「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」という形式要件がありました。2024年3月の制度廃止に伴い、この形式要件は撤廃されています。現行の「新規開業・スタートアップ支援資金」の制度概要にも、自己資金に関する要件の記載はありません。そのため「自己資金ゼロでも申込みは可能」です。
では公庫自身は自己資金をどう説明しているか。公式の創業支援サイトのQ&Aには、こう書かれています。
自己資金は重要な要素のひとつですが、それ以上に創業計画全体がしっかりしているかが重要になります。(中略)自己資金の目安については、公庫が融資先の創業企業を対象として実施した調査(「新規開業実態調査」)によると、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度となっています。
(出典:日本政策金融公庫「START 創業支援」Q&A・2026年8月14日確認)
「基準」ではなく「調査の結果としての平均」として説明されている点が重要です。公庫は倍率も比率も要件として定めていません。定めていないものを「何倍まで」と断定する記事があれば、その数字には出典がないと考えてよいと思います。
実績は「自己資金2割・金融機関からの借入7割」──2025年度調査の実数
公庫のQ&Aが参照している「新規開業実態調査」は、毎年公表されている統計です。最新の2025年度調査(2025年12月5日公表)の実数は次のとおりでした。
| 項目 | 金額(平均) | 調達額に占める割合 |
|---|---|---|
| 自己資金 | 279万円 | 22.9% |
| 金融機関等からの借り入れ | 827万円 | 67.9% |
| 配偶者・親・兄弟・親戚/友人・知人等・その他 | 113万円 | 9.3% |
| 資金調達額 合計 | 1,219万円 | 100% |
あわせて、開業費用は平均975万円・中央値600万円で、分布としては「250万円未満」が20.1%、「250万〜500万円未満」が21.7%と、4割以上が500万円未満で開業しています。平均値だけ見ると1,000万円近い数字になりますが、実際のボリュームゾーンはもっと小さい。ここは平均に引きずられないほうがいい箇所です。
出典:日本政策金融公庫 総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表・PDF)。調査時点2025年8月、公庫国民生活事業が2024年4月〜9月に融資した企業のうち融資時点で開業後1年以内の8,517社に調査し、回収2,165社(回収率25.4%)。2026年8月14日確認。
「自己資金の何倍まで借りられるか」に決まった倍率はありません
この質問には、正直に答えるしかありません。公庫が定めた倍率は存在しません。そのうえで、上の実績値から機械的に逆算すると、借入額は自己資金の約3.0倍(827万円÷279万円)という平均像になります。この比率を当てはめた参考値が下の表です。
| 自己資金 | 実績の平均比から逆算した借入額の参考値 | 資金の総額(自己資金+借入) |
|---|---|---|
| 50万円 | 約150万円 | 約200万円 |
| 100万円 | 約300万円 | 約400万円 |
| 200万円 | 約600万円 | 約800万円 |
| 300万円 | 約900万円 | 約1,200万円 |
この表は「公庫の融資を受けた創業者の平均像」を割り算しただけのもので、審査の基準でも、保証された金額でもありません。実際にはこの何倍も借りている人も、自己資金と同額しか借りていない人もいます。表の使い道は「自分の希望額が平均像からどれくらい離れているか」を知ることだけです。離れていること自体は問題ではありませんが、離れているほど、その差を埋める説明が要ります。
ここが、審査する側にいた立場から見たときの本題です。審査で組み立てるのは倍率ではなく、資金使途の積み上げと返済可能性の2つです。「いくら貸せるか」は、必要な設備と運転資金を一つずつ積み上げた合計から出てくるものであって、自己資金に係数を掛けて出すものではありません。実際、金融機関で見ていて筋が悪いと感じるのは、金額が先に決まっていて、後から使いみちを埋めた計画です。設備の見積書と、開業から数か月の運転資金の内訳が並んでいれば、必要額はおのずと決まります。自己資金はそこに対して「どれだけ自力で用意できたか」という位置づけで効いてきます。
自己資金として認められるもの・認められないもの
「自己資金100万円」と思っていた金額が、審査の場では100万円と扱われないことがあります。逆に、自己資金に数えられるのに数え忘れている資金もあります。実務でよく論点になるものを整理します。
| 区分 | 資金の種類 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 数えられる | 本人名義の預貯金 | もっとも説明が要らない形。毎月コツコツ積み上がった履歴があると強い |
| すでに入金された退職金 | 入金済みであることが前提。支給予定の段階では扱いが変わる | |
| 保険の解約返戻金 | 解約して入金済みであれば預貯金と同じ。解約返戻金額の通知書があると説明が早い | |
| 返済義務のない贈与・親族からの支援金 | 「借入」ではなく「もらったお金」であることの説明が必要。金額によっては贈与税の検討も要る | |
| みなし自己資金(申込前にすでに支払った創業準備費用) | 内装工事の手付金・厨房機器の前払いなど。領収書・契約書・振込記録が残っていることが条件。現金払いで証憑がないと数えようがない | |
| 数えられない | 返済義務のある借入金(親族・知人からの借入を含む) | 他人資本であり、返済負担としてむしろマイナスに働く |
| 通帳に入っていない現金(いわゆるタンス預金) | 出所も残高も確認できない。申込前に入金しても、下の「見せ金」の論点になる | |
| 出所を説明できない入金 | 金額の多寡ではなく、説明できるかどうかが問題になる |
この表で実際にいちばん効くのは、いちばん下の「みなし自己資金」です。申込前に払った創業準備費用を自己資金として説明できることを知らずに、手持ちの残高だけを自己資金として申告してしまう方が少なくありません。開業準備で先に支払ったものがあるなら、証憑を先に集めておいてください。
見せ金は、残高ではなく入出金の流れで見抜かれます
注意したいのが、いわゆる「見せ金」です。融資のために一時的に親族から借りて口座に入れたお金は、通帳の入出金の流れを見れば、審査側にはほぼ見抜かれます。残高そのものではなく、そこに至る経緯を見ているからです。数か月分の通帳をめくったときに、申込みの直前だけ大きな入金が一度ある、という形は目に留まります。
そして見抜かれたときに失うのは、その自己資金の分だけではありません。計画書に書いた他の数字も同じ目で読み直されます。売上予測も、経費の見積もりも、盛っているのではないかと疑いながら読まれる。自己資金の数十万円と引き換えに、計画全体の信頼を差し出すことになるので、割に合いません。どのように貯めてきたかという「お金の出所と経緯」まで見られると考えてください。
自己資金が足りないと感じたときに効く3つの手
ここからは、支援の現場で実際に使っている整理の仕方です。自己資金が希望額に対して足りない、と相談を受けたとき、私は次の3つに分解して考えます。
- 売上の根拠を具体化する。取引先名・数量・単価まで下ろします。「頑張ります」は根拠になりません
- 自己資金として数えられるものを漏れなく拾う。上の表のとおり、みなし自己資金や解約返戻金を数え忘れていることが実際にあります
- 借入額そのものを圧縮する。設備の仕様を落とす、中古を検討する、取得価格を再交渉する
この3つのうち、いちばん効きが速いのは3番目の「借入額の圧縮」です。1番目は取引先の返事待ちになりますし、2番目は掘り尽くせば終わります。ところが借入額のほうは、自分の判断だけで今日動かせます。ある小売業の創業相談では、初期の設備一式を見直して借入希望額を2割落としたところ、返済負担が下がって計画の見え方が変わりました。「自己資金の何倍借りられるか」という問いは、分母を上げる話としてだけでなく、分子を下げる話としても考えられます。倍率を追いかけるより、こちらのほうが手が届きます。
もうひとつ、自己資金が薄いときほど効くのが、金利の側の手当てです。市区町村の「特定創業支援等事業」の証明を受けると特別利率の対象になり、上の利率表でいえば基準利率(年3.55〜5.25%)から特別利率A(年3.15〜4.85%)へと下がります。認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて自ら事業計画書を策定した場合も、特別利率Aの要件に挙げられています。この制度は後述の「相談はどこへ」の章で詳しく取り上げます。
なお、創業計画書のどの欄に何をどう書くかは、創業計画書の書き方と記入例(公庫の8項目)で項目ごとに解説しています。必要な資金の積み上げ方と月次の資金繰りの組み方は、収支計画書の書き方(公庫様式対応・エクセル無料DL)が実物付きで参考になるはずです。
ここまで読んで「自分の場合は結局いくら借りられそうなのか」が気になった方は、初回無料のご相談で、手元の自己資金と必要な設備の見積もりをもとに一度当たりを付けてみてください。資金調達全体の設計は財務・資金調達のご支援でご案内しています。