公開日:2026年9月29日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「レジを入れ替えたいけれど、補助金を待っていると間に合わない」。小売店・飲食店の経営者にとって、これは9月半ばから急に現実味を帯びた悩みです。来年4月に飲食料品の消費税率が下がる方針が示され、いまのレジで対応できるのかを確かめる必要が出てきたからです。
結論から言えば、2026年9月15日以降にスマートレジを導入したりPOSレジを改修したりした費用は、後から「デジタル化・AI導入補助金」に申請できます。交付決定を待たずに先に買ってよい、という特例が「事前着手制度」です。ただし、申請受付が始まるのは2027年1月ごろの予定で、公募要領はまだ公開されていません。
はじめにお断りしておくと、私は元銀行員として長く法人融資の審査に携わってきました。融資の審査と補助金の審査は別物です。融資は「貸したお金が返ってくるか」を、補助金は「その投資に政策的な意義と実現性があるか」を見るもので、評価する主体も基準も違います。ただ、どちらにも共通して効くのは「数字の根拠を残しているか」を問う目です。今回の制度はまさにそこが勝負になります。この記事では、中小企業庁が公表した資料と閣議決定された大綱の原文にあたって、いま何を確認し、何を残しておくべきかを整理します。
スマートレジ補助金の事前着手制度とは?何が決まっているのか
まず、現時点で国が公表している事実だけを並べます。
中小企業庁は2026年9月15日、「変化の時代に対応できるスマートレジの導入支援(事前着手制度)」を公表しました。令和9年4月から飲食料品の消費税率を引き下げる方針が大綱の閣議決定で示されたことを受け、デジタル化・AI導入補助金において、従来型のレジからスマートレジへの導入や、POSレジ等の改修により新しい税率に対応できるよう支援する、という内容です。
そのうえで、こう書かれています。「経営の現場においてスマートレジの導入等が間に合うよう、事業者の皆様が、9月15日以降、事前に補助対象となるスマートレジの導入やPOSレジの改修等を行っていただき、事後に補助金を申請することができる『事前着手制度』を措置します」。
公表資料(Ver 1.0)に載っているスケジュールは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象期間 | 2026年9月15日 ~ 2027年3月(調整中) |
| 申請受付期間 | 2027年1月 ~ 2027年3月(調整中) |
| 公募要領 | 後日、事務局ホームページに掲載(2026年9月29日時点で未公開) |
「調整中」と明記されている点に注意してください。資料自体が「変更となる可能性がありますので、申請にあたっては必ず公募要領をご確認ください」と断っています。日付が動く前提の制度だ、ということです。
「1%になる」という話は、どこまで決まっているのか
ここは分けて理解したほうがいいところです。2026年9月15日に閣議決定された「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」は、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの間、飲食料品の譲渡等について消費税の税率を0.78%(地方消費税率と合わせて1%)とする特例を創設する、と書いています。現行の軽減税率の対象である飲食料品の範囲は維持されます。
ただし大綱は「必要な法制上の措置等を可及的速やかに講ずる」としており、税率そのものは法律が通ってはじめて変わります。つまり、閣議決定は済んでいるが法改正はこれから、という段階です。一方で、レジの支援=事前着手制度のほうは、中小企業庁がすでに「措置します」と公表しています。税率の話とレジ支援の話は、決まり具合が違います。
なお、この補助金は思いつきで出てきたものではありません。大綱の注書きには、円滑な実施に向けて「スマートレジシステムへの移行やレジシステムの改修を行う中小企業等に対する支援を行う」と明記されています。閣議決定文書に支援の約束が書き込まれている、という意味では、足元はしっかりしている制度です。
そもそも補助金は交付決定前に発注できないはず?禁止の根拠はどこにあるのか
補助金を何度か使ったことのある方ほど、ここで引っかかると思います。「交付決定の前に発注したら補助対象外になる」と、耳にタコができるほど言われてきたはずだからです。実際、私も面談のたびにお伝えしています。
では、その禁止はどの法律の何条に書いてあるのか。調べてみると、意外なことがわかります。
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(適正化法)には、「交付決定前に発注してはならない」と書いた条文はありません。仕組みはこうです。同法第6条で各省各庁の長が交付の決定をし、第7条第1項第2号で、交付決定をする際に「補助事業等を行うため締結する契約に関する事項その他補助事業等に要する経費の使用方法に関する事項」について条件を附するものとされています。そして第11条第1項で、補助事業者は「補助金等の交付の決定の内容及びこれに附した条件」に従って事業を行わなければならない、と義務づけられます。
つまり、「交付決定日以降に契約・発注したものに限る」というルールは、法律の条文ではなく、各制度の交付規程や公募要領に書かれた“条件”として存在しているのです。だから制度ごとに違いますし、今回のように国が条件の側を緩めれば例外もできます。
この理解が実務で効くのは、根拠を確認する場所がはっきりするからです。「補助金は一般に交付決定前の発注が認められていない」という一般論をいくら読んでも、自分の案件の答えは出ません。答えが書いてあるのは、自分が申請する制度の、自分が申請する公募回の公募要領と交付規程、そして交付決定に付される条件です。制度が違えば扱いも違います。実際、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には事前着手の届出という仕組みそのものがなく、公募要領は交付決定前の発注を認めていません。「他の補助金で事前着手届を出したことがあるから今回も大丈夫だろう」は、いちばん危ない読み替えです。
そして今回の事前着手制度は、その条件の側を国が正面から外した特例です。だからこそ、9月15日という起算日が意味を持ちます。9月14日以前の発注は、この特例の外側と読むのが自然です(何の日付で判定するかは公募要領で確定します)。
補助率は本当に4/5なのか?上限350万円の中身を読む
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。ニュース記事の見出しでは「補助率最大4/5・上限350万円」と書かれています。間違いではありませんが、そのまま自分の案件に当てはめると、たいてい計算が合いません。
中小企業庁の公表資料(Ver 1.0)には、類型ごとに次のように書かれています。
| 類型 | 対象経費 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| スマートレジ類型 (従来型レジからの導入) | ソフトウェア(スマートレジシステムの購入費、クラウド利用料、受発注・請求書管理システムの改修費)/役務(導入設定、マニュアル作成、導入研修、保守サポート) | 1機能:~50万円 2機能以上:~350万円 | ~50万円以下:3/4 (小規模事業者:4/5) 50万円~350万円:2/3 |
| ハードウェア(PC・タブレット購入費) | ~20万円 | 1/2 | |
| POSレジ類型 (POSレジ等の改修) | ソフトウェア(POSレジ・受発注・請求書管理等のシステム改修費、POSレジシステムの購入費、クラウド利用料)/役務(同上) | 1機能:~50万円 2機能以上:~350万円 | ~50万円以下:3/4 (小規模事業者:4/5) 50万円~350万円:2/3 |
| ハードウェア(レジ購入費) | ~20万円 | 1/2 |
資料には「機能とは、『会計』『受発注』『決済』であり、詳しくは補助金事務局ホームページをご参照ください」という注記が付いています。上限額が機能の数で二段構えになっているのはそのためです。
読み取れることを3つに絞ります。
1つめ。4/5は小規模事業者だけ、しかも下の区分だけです。「~50万円以下:3/4(小規模事業者:4/5)」と書かれている一方、「50万円~350万円」の区分には小規模事業者の括弧書きがありません。つまり上の区分は2/3です。導入規模が大きくなるほど、見出しの4/5からは遠ざかる構造になっています。
2つめ。ハードウェアは別枠で、上限20万円・補助率1/2です。レジ本体やタブレットは、ソフトウェアや役務とは扱いが違います。「350万円まで出る」という感覚で端末を何台も見込むと、そこだけ半分しか乗りません。
3つめ。50万円という区切りが、補助額の話なのか対象経費の話なのか、公表資料からは確定できません。ここは正直に書きます。資料はVer 1.0で、判定の単位まで書いていません。参考になるのは、同じ「会計・受発注・決済」の機能数で上限が50万円/350万円に分かれる、既存のインボイス枠(インボイス対応類型)の公募要領です。こちらは「補助額50万円以下の部分」を3/4(小規模事業者は4/5)、「補助額50万円超の部分」を事業者規模によらず2/3で算出する、と補助額を基準に段階的に計算する方式をとっています。ただ、事前着手制度が同じ方式になるかどうかは、公募要領が出るまで確定しません。この区切りの解釈で補助額は数十万円単位で変わるので、公募要領が出るまでは、あえて試算を1本に決めないほうがいいと考えています。金額を固めたい場合は、公募要領の公開を待つか、事務局に確認してください。
加えて、資料には「導入+その後のサービス・定着支援も対象(最大2年間)」とも書かれています。保守サポートまで見てもらえるのは、レジを入れたあとの運用が不安な事業者にとっては大きいところです。
なお、資料には「中堅企業も一部対象」ともありますが、上の表の類型・補助率・上限がそのまま中堅企業に使えるわけではありません。経済産業省は中堅企業向けに別の支援制度を案内しており、対象は飲食料品を取り扱う小売業者などの要件を満たす中堅企業(中小企業を除く)、補助上限2,500万円・補助率1/3です。中堅企業に当たる方は、こちらの案内と今後の公募要領を確認してください。
もうひとつ、消費税の扱いを忘れないでください
補助金の相談で毎回お伝えしていることです。デジタル化・AI導入補助金2026の既存の公募要領(通常枠・インボイス枠)は、消費税を補助対象外の経費(公租公課)に挙げています。事前着手制度の扱いは公募要領で確定しますが、同じと見ておくのが安全で、その場合、消費税分は自己負担になります。税込110万円のシステムなら、補助の計算の土台は100万円です。この10万円は補助金では戻ってきません。
さらに、補助金は後払いです。事前着手制度の場合はなおさらで、申請受付が始まるのは2027年1月ごろの予定ですから、2026年秋に払ったお金は、少なくともそれまでは全額を自分で立て替えることになります。申請後の手続きと入金の時期は公募要領が出るまでわかりません。資金計画では、入金が2027年の後半までずれ込むことも見込んでおくのが安全です。数百万円の設備であれば、その間の資金繰りをどうするかを先に決めておく必要があります。金融機関に相談するなら、レジの話が具体化した時点で早めに伝えておくのが安全です。「来週までに」と言われて出てくるものではありませんから。
対象になるのは誰か?2つの類型と、事務局登録という関門
類型の分かれ目は、いま使っているレジをどうするかです。従来型のレジからスマートレジに切り替えるならスマートレジ類型、いまのPOSレジを税率変更に対応させる改修ならPOSレジ類型になります。
スマートレジという言葉自体は、中小企業庁の資料で「タブレットやスマートフォン等の汎用端末にインストールされて利用されるレジのこと」と定義されています。レジ締めや集計が自動化され、商品別・時間帯別に売上が見える、というのが従来型との違いとして挙げられています。
そのうえで、留意点として資料に明記されているのが次の4点です。
- レジの導入においては、あらかじめ事務局に登録されているスマートレジ・POSレジ等の製品が対象となる
- 申請要件を満たしている限り交付対象となるが、改修費や役務費については複数見積等が必要となる場合がある
- 事後の申請のため、契約、納品及び支払いに関する全ての書類を保管する(仕様書、見積書、レシート等の取引を証明できる書類)
- 詳細は後日公募要領を掲載する。変更となる可能性があるので、申請にあたっては必ず公募要領を確認する
1つめが、実務上いちばんの関門です。事務局に登録されている製品でなければ対象になりません。事務局サイトには既存の枠で登録されたITツールを調べる「ITツール検索」がありますが、事前着手制度でどの製品が対象になるかは、公募要領と同じくまだ公表されていません。いま家電量販店で気に入ったレジを買ってしまうと、登録製品に入っていなかったときに取り返しがつきません。
この「対象になるもの・ならないもの」の線引きは、補助金の相談でいつも最初に説明する話です。持続化補助金でも、機械装置としてショーケースやベビーチェアが対象経費の例に挙がる一方、パソコンや事務用プリンター、タブレット端末のような汎用性の高いものは対象とならない経費の例に並んでいる、という具合に、感覚と制度がずれます。今回はそこに「事務局登録製品かどうか」という機械的な線が加わります。感覚で買わない。これに尽きます。