公開日:2026年7月6日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)

「IT導入補助金を使ってソフトを入れたいと調べたら、名前が変わっていて戸惑った」。山梨県内の経営者から、最近こうしたご相談が増えています。会計ソフトや予約システム、AIツールの導入を考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのが、長く親しまれてきたIT導入補助金だからです。

結論から言えば、IT導入補助金は2026年度(令和7年度補正予算)から「デジタル化・AI導入補助金」に名称が変わりました。制度の骨格——中小企業・小規模事業者がITツールを導入する費用の一部を補助するという枠組みは維持されつつ、AIを含むデジタル活用をより前面に出す形に整理されています。名前は変わっても、「使えなくなった」わけではありません

はじめにお断りしておくと、私は元銀行員として長く法人融資の審査に携わってきました。融資の審査と補助金の審査は別物です。融資は「貸したお金が返ってくるか」を、補助金は「その投資に政策的な意義と実現性があるか」を見るもので、評価する主体も基準も違います。ただ、どちらにも共通して効くのは「計画の数字に根拠があるか」を厳しく問う目です。その視点も交えながら、公募要領の一次情報にもとづいて、対象・補助率・申請の流れを山梨の中小企業向けに整理します。


IT導入補助金2026とは?デジタル化・AI導入補助金に何が変わったのか

2026年度から、IT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金2026」(正式名称:中小企業デジタル化・AI導入支援事業)へと名称変更されました。経済産業省・中小企業庁の補助事業で、事務局は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が担っています。

変わったのは主に次の3点です。まず①名称と打ち出し方で、生成AIを含むAIツールの導入を明確に後押しする制度へと整理されました。次に②2回目以降の申請要件が追加され、過去に補助金を受給した事業者が再び申請する際の要件が厳しくなりました。そして③労働生産性の向上計画(交付申請時点の翌事業年度以降3年間の事業計画)の策定など、生産性向上への貢献がこれまで以上に問われる設計になっています。

逆に変わらない点も多くあります。ソフトウェアやクラウドサービスの導入費用を補助する基本の仕組み、GビズIDプライムの取得やSECURITY ACTIONの宣言といった事前準備、事務局に登録されたITツールの中から選んで導入する流れは、従来のIT導入補助金と同じです。「IT導入補助金2026」で検索してたどり着いた方も、探しているのはこの制度で間違いありません。

山梨県内で使える補助金の全体像から確認したい方は、山梨県の中小企業が使える補助金一覧【2026年度版】もあわせてご覧ください。

対象になるのは誰か?対象事業者とITツールの条件

対象となるのは、日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者と個人事業主です。業種ごとに資本金・従業員数の上限が定められています(中小企業基本法の区分に準じます)。

業種資本金常時使用する従業員数
製造業・建設業・運輸業その他3億円以下または300人以下
卸売業1億円以下または100人以下
サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業を除く)5,000万円以下または100人以下
小売業5,000万円以下または50人以下

資本金・従業員数のいずれかを満たせば対象です。飲食・宿泊・卸小売・運輸・医療・介護・保育などのサービス業のほか、製造業や建設業も対象になります。個人事業主も対象で、創業して間もない事業者でも、法人登記または開業の実態があり要件を満たせば申請できます

ITツールについては、「事務局にあらかじめ登録されたITツール」しか対象になりません。ここが多くの方の勘違いしやすいところです。よくいただく質問に沿って整理します。

  • パソコン単体では申請できません。通常枠の補助対象経費はソフトウェア購入費・クラウド利用費・導入関連費で、ハードウェアは含まれません。PC・タブレットが対象になるのは、後述するインボイス枠でレジ用ソフトなどと併せて導入する場合に限られ、その場合でもPC・タブレット等は上限10万円、レジ・券売機は上限20万円までです。
  • ホームページやECサイトの制作費そのものは、原則として補助対象外です。補助の対象はあくまで登録されたITツール(業務用ソフトウェア等)で、単なる情報発信のためのサイト制作は対象になりません。
  • AIツールも、登録されたITツールであれば対象になり得ます。2026年度はAI活用がより明確に位置づけられました。

補助率・補助上限はいくらか?4つの申請枠を早見表で

デジタル化・AI導入補助金2026には、通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠・複数者連携デジタル化・AI導入枠の4つの枠があります(インボイス枠は「インボイス対応類型」と「電子取引類型」に分かれます)。まず全体像を早見表で示します。数値は公募要領(2026年度)にもとづきますが、公募回によって細部が改訂されることがあるため、申請前に必ず最新の公募要領でご確認ください。

補助額補助率主な対象経費
通常枠5万円〜450万円以下1/2以内(条件により2/3以内)ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費
インボイス枠(インボイス対応類型)ソフト〜350万円/PC・タブレット等〜10万円/レジ・券売機〜20万円ソフト:3/4以内(小規模は4/5以内)〜2/3以内、ハードウェア:1/2以内ソフトウェア購入費、クラウド利用費、ハードウェア関連費、導入関連費
インボイス枠(電子取引類型)〜350万円中小・小規模:2/3以内/その他:1/2以内クラウド利用費(最大2年分)
セキュリティ対策推進枠5万円〜150万円中小企業:1/2以内/小規模事業者:2/3以内サービス利用料(最大2年分)
複数者連携デジタル化・AI導入枠(1)+(2)で上限3,000万円ほか2/3以内が中心基盤導入経費、消費動向等分析経費、その他経費

通常枠|まず検討したい基本の枠

会計・受発注・予約管理などの業務ソフトを導入するなら、多くの場合この通常枠が入口になります。補助額は5万円〜150万円未満(1プロセス以上のソフト)150万円〜450万円以下(4プロセス以上)の2段階です。補助率は原則1/2以内ですが、最低賃金近傍で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる月が一定期間ある場合などは2/3以内に引き上げられます。150万円以上の申請では、給与支給総額の年平均成長率や事業場内最低賃金に関する賃上げ要件が加わります。

インボイス枠・セキュリティ枠・複数者連携枠

インボイス枠(インボイス対応類型)は、会計・受発注・決済の機能を持つソフトを対象に、補助率が手厚く設定されています。ソフトウェアのうち50万円までの部分は3/4以内(小規模事業者は4/5以内)、50万円超〜350万円の部分は2/3以内。あわせてPC・タブレット等(上限10万円)やレジ・券売機(上限20万円)も1/2以内で対象になります。電子取引類型は、発注側が受注側にアカウントを無償提供するようなクラウドサービスが対象で、補助率は中小・小規模で2/3以内です。

セキュリティ対策推進枠は、IPA(情報処理推進機構)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスの利用料(最大2年分)が対象で、補助額は5万円〜150万円、補助率は中小企業1/2以内・小規模事業者2/3以内です。複数者連携デジタル化・AI導入枠は、商店街や組合など複数の事業者が連携してデジタル化に取り組む場合の枠で、基盤導入経費と消費動向等分析経費をあわせて上限3,000万円などが設定されています。

申請の流れは?GビズID・SECURITY ACTIONから交付申請まで

申請は「事前準備 → 交付申請 → 審査 → 発注・支払い → 実績報告 → 補助金交付」という流れで進みます。ポイントは、交付決定の前に発注・契約・支払いをしてしまうと補助対象外になることです。ここは毎年、思い込みで先に発注してしまう方が出るところなので、特に注意してください。

  • STEP1|事前準備:「GビズIDプライム」アカウントを取得し、「SECURITY ACTION」(★一つ星または★★二つ星)を宣言します。GビズIDの発行には日数がかかるため、早めに着手します。
  • STEP2|ツール・支援事業者の選定:登録されたITツールと、導入を支援する「IT導入支援事業者(ベンダー)」を選びます。ここが申請の成否を左右します。
  • STEP3|交付申請:支援事業者と共同で、事業計画(労働生産性の向上計画を含む)と必要書類を揃えて申請します。
  • STEP4|審査・交付決定:事務局の審査を経て交付が決定します。この決定を受けてから発注・契約・支払いを行います。
  • STEP5|実績報告・交付:導入と支払いを終えたら実績を報告し、補助金が交付されます。導入後には効果報告も求められます。

手続きの負担感やスケジュールが気になる方は、補助金の採択率を上げるために申請前にやるべきこともあわせてお読みください。

審査で落ちないために?元銀行員・診断士が見る3つのポイント

採択率を上げるうえで、私が山梨県内の事業者の申請支援で実際に効くと感じているのは、次の3点です。制度の数値以上に、ここが「通る計画」と「落ちる計画」を分けます

1. 資金繰り──「返さなくていいお金」でも、一度は全額立て替える

これは元銀行員として最初にお伝えしたい点です。補助金は後払いです。ある小売業の社長さんの導入支援でも最初にお伝えしたのですが、ソフトや機器の代金は、いったん自社で全額を立て替えて支払い、あとから補助金が入ってくる仕組みです。しかも、補助されるのは原則として税抜金額に対してなので、消費税分は自己負担になります。手元資金が薄い場合は金融機関からのつなぎ融資を検討することになり、その際に金融機関の確認書が必要になるケースもあります。確認書は数日では出ないことが多いので、早い段階で取引金融機関に相談しておくのが実務的です。「採択されたのに資金が回らない」を避けるための、地味ですが大事な準備です。

2. 加点──「申請するか迷っている段階」から先に取っておく

審査には加点項目があります。SECURITY ACTIONの宣言、賃上げの表明、デジタル化に関する取組みの確認など、準備に日数がかかるものが少なくありません。ある製造業の社長さんには、「申請するかどうか最終的に決める前でも、取れる加点だけは先に取っておきましょう」とお伝えしました。加点は、申請する・しないにかかわらず、取っておいて損はありません。締切間際になってから慌てても間に合わないものがあるので、迷っているうちから準備を始めるのが、結果的に採択の確率を上げます。

3. 計画──AIで文章は誰でも書ける時代だからこそ、審査項目を1つずつ埋める

正直に言えば、今は多くの方がAIを使って、それなりに整った申請文章を書けるようになりました。だからこそ差がつくのは、審査項目の一つひとつに、自社の数字と根拠でていねいに答えているかです。私はご相談の場で公募要領の審査項目を画面に映しながら、「ここは配点があるので、空欄にすると点が付きません。全部埋めましょう」と一つずつ確認していきます。

その骨格になるのが、「現状 → 課題 → 解決策 → 効果」というストーリーです。単に「売上を増やしたい」ではなく、今の事業規模と現場のボトルネックを示し、そのITツールがなぜ課題を解くのか、導入後にどれだけ生産性や利益が上がるのかを、数字でつなぐ。ツールの機能説明で終わらせず、「これで利益がいくら増えるか」まで書く——ここは融資の事業計画を審査してきた目とも共通します。加えて、システムは最初から機能を盛り込みすぎず、小さく始めて後から広げられる形にしておくと、導入後に「思っていたのと違う」で使われなくなる失敗を避けられます。

「自社はどの枠が合うのか」「そもそも今のタイミングで補助金を狙うべきか」を整理したい方は、AIによる補助金診断で当たりをつけたうえで、ご相談ください。無理に補助金ありきで進めるのではなく、事業にとって本当に必要な投資かどうかから一緒に考えます。


よくある質問(FAQ)

IT導入補助金2026はどこの省庁の制度ですか?

経済産業省・中小企業庁の補助事業です。2026年度から「デジタル化・AI導入補助金2026」(中小企業デジタル化・AI導入支援事業)に名称変更され、事務局は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が担っています。

IT導入補助金2026でパソコンだけを購入できますか?

パソコン単体では申請できません。通常枠の対象はソフトウェア・クラウド・導入関連費で、ハードウェアは含まれません。PC・タブレットが対象になるのはインボイス枠でレジ用ソフトなどと併せて導入する場合に限られ、その場合もPC・タブレット等は上限10万円、レジ・券売機は上限20万円までです。

ホームページ制作は対象になりますか?

ホームページやECサイトの制作費そのものは、原則として補助対象外です。補助の対象は事務局に登録されたITツール(業務用ソフトウェア等)に限られます。最新の対象範囲は公式ポータルで確認してください。

個人事業主や創業まもない事業者でも申請できますか?

できます。個人事業主も対象で、法人登記または開業の実態があり、業種ごとの要件を満たせば申請可能です。ただし賃上げ要件や労働生産性の計画など、枠ごとの要件は満たす必要があります。

一度もらったら、もう申請できないのですか?

2026年度からは、2回目以降の申請に係る要件が追加され、過去に受給した事業者が再び申請する場合の条件が厳しくなりました。再申請を検討する場合は、最新の公募要領で追加要件を確認してください。

山梨県の事業者はどこに相談すればよいですか?

まずは商工会議所・商工会や、認定経営革新等支援機関、IT導入支援事業者への相談が入口になります。当事務所(池田計画合同会社)でも、山梨県内の中小企業向けに、枠の選定から事業計画づくりまで伴走しています。


この記事の執筆者:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
山梨県を拠点に、中小企業・小規模事業者の経営改善・資金調達・補助金申請を支援しています。八十二銀行で長く法人融資の審査に携わった後、独立。「返済不要だから」と補助金ありきで進めるのではなく、事業にとって必要な投資かどうかを見極めたうえで、採択される計画づくりまで伴走します。デジタル化・AI導入補助金の枠選びや申請でお困りの方は、補助金診断またはお問い合わせからご相談ください。

※本記事は2026年7月時点で公開されているデジタル化・AI導入補助金2026の公募要領(通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠)にもとづいて作成しています。補助率・上限額・要件・スケジュールは公募回によって改訂されることがあります。申請にあたっては、必ず公式ポータル(デジタル化・AI導入補助金2026)で最新の公募要領をご確認ください。