公開日:2026年10月13日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
税理士事務所から毎月届く試算表を、売上の欄だけ見て閉じている。そういう社長さんは珍しくないと思います。数字の並んだ紙を前に「どこを見ればいいのか」が分からないのは、読み方を教わる機会がほとんどないからで、社長の責任ではありません。この記事では、試算表を毎月どの順番で読めばよいか、そしてその試算表の利益をどこまで信用してよいかを、見本の数字を使って説明します。
結論:試算表とは、会計ソフトの帳簿を月末などで締めて、勘定科目ごとの残高を一覧にした表のことです。決算を待たずに今期の損益と財産の状態を確かめるために使います。
- 社長が毎月見るのは、現預金・売上高と粗利率・営業利益・売掛金と在庫・借入金の5か所です
- 減価償却費・在庫・賞与を毎月計上していない試算表は、月ごとの利益が実態より大きく振れます。見本では、上半期の営業利益が180万円多く出ました
- 銀行は、決算から時間がたっていると試算表を求めます。見られるのは利益の額より、決算書とつながる精度があるか、中身を説明できるかです
試算表とは?決算書と何が違うのか
試算表は、日々の仕訳を勘定科目ごとに集計した一覧表です。決算書(損益計算書と貸借対照表)は1年に1回、決算整理をしてから作りますが、試算表は毎月でも作れます。中身は同じ科目の並びなので、試算表は「途中経過の決算書」と考えると近いと思います。
試算表には3つの種類があります。簿記の教科書ではここに紙幅を割きますが、社長が読むうえで押さえておくのは次の表くらいで十分です。
| 種類 | 載っているもの | 社長が使う場面 |
|---|---|---|
| 合計試算表 | 科目ごとの借方・貸方の合計額 | ほぼ使わない(記帳の検算用) |
| 残高試算表 | 科目ごとの残高 | 今期の損益と、月末時点の財産・借入の状態を見る |
| 合計残高試算表 | 合計と残高の両方 | 会計ソフトの標準の出力。社長は「残高」の欄だけ見ればよい |
会計ソフトからは、これとは別に「月次推移表」も出せます。科目を縦に、4月・5月・6月…と月を横に並べた表です。毎月の試算表を1枚ずつ見るより、この推移表を1枚見るほうが変化に気づきやすいので、税理士事務所に試算表とセットで出してもらうことをおすすめします。
社長は毎月、試算表のどこから見ればよいのか?
見る場所は5か所で、順番は「現金→もうけ→財産の中身→借入」です。最初に現金を見るのは、利益が出ていても現金が足りなければ支払いが止まるからです。
| 順番 | 見る科目 | 確かめること |
|---|---|---|
| ① | 現金・預金 | 月商の何か月分あるか。前月から減っていれば、その理由 |
| ② | 売上高と粗利率 | 前年同月と比べて増えたか減ったか。粗利率が急に動いていないか |
| ③ | 営業利益(累計) | 期首からの累計で黒字か。前年の同じ時期と比べてどうか |
| ④ | 売掛金・在庫・仮払金 | 売上の伸びより速く増えていないか。中身を説明できるか |
| ⑤ | 借入金 | 返済予定どおりに残高が減っているか。短期の借入が増えていないか |
① 現預金は、月商の何か月分あるか
貸借対照表側の「現金」「普通預金」「当座預金」などを合計し、月商(年間売上÷12)で割ります。何か月分あれば安全かは業種と借入の状況で変わるので、一律の線は引けません。大事なのは、毎月同じ物差しで測って推移を見ることです。資金繰り表での月商倍率の読み方は資金繰り表の作り方で詳しく書いています。
② 売上高は、前月ではなく前年同月と比べる
売上には季節の波があります。前月比で見ると、波の谷に入っただけの月を「悪化」と読んでしまいます。自動車整備の会社で部門別の収益を見る場合も、車検整備の部門は6〜9月だけを切り取ると低く見えやすくなります。12月はタイヤの預かりなどで売上が高くなる、という波を補正して初めて、部門の実力が読めます。月の数字は、前年の同じ月と並べて読むのが基本です。
あわせて粗利率(売上総利益÷売上高)も見ます。仕入価格が上がったのに売価を据え置いていれば、粗利率は少しずつ下がっていきます。ただし、粗利率が月ごとに大きく上下している場合は、商売の変化ではなく後で説明する「在庫の計上漏れ」が原因のことがあります。
③ 営業利益は、単月より累計で見る
単月の利益は、大口の請求や経費を計上するタイミングで簡単に振れます。期首からの累計で黒字か赤字か、前年の同時期の累計と比べてどうかを見るほうが、判断を誤りにくくなります。
④ 売掛金・在庫・仮払金は、売上より速く増えていないか
売上が1割伸びたのに売掛金が3割増えていれば、回収が遅れている取引先がいるかもしれません。在庫も同じで、売上以上に膨らんでいれば、売れ残りや過剰な仕入れを疑います。仮払金・立替金・貸付金は、残高が月をまたいで残り続けていないかを見ます。社長個人への貸付が積み上がっている場合の扱いは役員貸付金の解説を参照してください。
⑤ 借入金は、返済予定どおりに減っているか
長期借入金の残高は、毎月の約定返済の分だけ減っていくはずです。減り方が予定と違う、あるいは短期借入金や代表者からの借入が増えている場合は、運転資金が足りなくなり始めている合図です。
その試算表の利益は信用できるのか?月次の精度を確かめる3項目
5か所を見る前に、実はもう一つ確かめておきたいことがあります。その試算表が、毎月の損益を正しく映す作り方になっているかどうかです。試算表は決算整理の前の数字なので、作り方によっては月の利益が実態と大きくずれます。ずれの原因になりやすいのは次の3つです。
| 項目 | 月次で計上していないと | 試算表への影響 |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 決算月にまとめて1年分を計上する | 期中の利益が大きく見え、決算月だけ利益が急に落ちる |
| 在庫(棚卸資産) | 期首の在庫額のまま動かさず、仕入れをそのまま原価にする | 仕入れが多い月は赤字、少ない月は黒字に見え、粗利率が月ごとに上下する |
| 賞与 | 支給した月にまとめて人件費にする | 賞与の月だけ利益が落ち込み、それ以外の月は利益が大きく見える |
見本:同じ会社の上半期を、2通りの試算表で並べる
架空の製造業(3月決算・年商約1億9,000万円)で比べてみます。前提は次のとおりです。
- 原価率は毎月60%で安定している(実際の売上総利益率は40%)
- 給与は月200万円、賞与は夏(7月)と冬(12月)に各240万円
- その他の経費は月100万円、減価償却費は年600万円
- 期首(4月1日)の在庫は1,200万円
左は3項目を月次で計上していない試算表(減価償却は決算でまとめて、在庫は期首のまま、賞与は支給月)、右は毎月計上した試算表です。単位は万円です。
| 月 | 売上高 | 仕入高 | 営業利益 (月次計上なし) | 営業利益 (月次計上あり) | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 4月 | 1,500 | 950 | 250 | 210 | +40 |
| 5月 | 1,580 | 900 | 380 | 242 | +138 |
| 6月 | 1,650 | 1,050 | 300 | 270 | +30 |
| 7月 | 1,620 | 930 | 150 | 258 | ▲108 |
| 8月 | 1,400 | 1,000 | 100 | 170 | ▲70 |
| 9月 | 1,700 | 960 | 440 | 290 | +150 |
| 上半期計 | 9,450 | 5,790 | 1,620 | 1,440 | +180 |
月次で計上していない左の列は、営業利益が100万円から440万円まで振れています。粗利率に直すと28.6%から43.5%まで動いていて、7月と8月は「利益が急に落ちた」ように見えます。ところが実際の原価率は毎月同じで、右の列のとおり利益は170万〜290万円の幅に収まっています。8月が一番低いのは売上が少ない月だからで、これは本当の動きです。
9月の試算表で180万円の差が出るのはなぜか
上半期の累計で、月次計上のない試算表は営業利益を180万円多く見せています。内訳は次のとおりです。
| 原因 | 上半期の影響額 | 中身 |
|---|---|---|
| 減価償却費を計上していない | +300 | 月50万円×6か月分が、まだ費用になっていない |
| 在庫の増加を反映していない | ▲120 | 在庫が1,200万円から1,320万円に増えた分まで原価にしている |
| 賞与を支給月に計上している | 0 | 月40万円×6か月=240万円と、7月支給の240万円が同額のため、上半期の累計では相殺される |
| 合計 | +180 |
上半期だけで、本当の営業利益1,440万円に対して1割以上多く出ている計算です。しかも減価償却費の年600万円は、このままでは3月にまとめて出てきます。3月の試算表だけが大きな赤字になり、「決算で急に利益が減った」という見え方になります。
ここで困るのは、9月の試算表を見て「上半期で1,620万円出たから通期で3,000万円を超えそうだ」と判断してしまうことです。設備投資や賞与の額をこの数字で決めると、決算で計算が合わなくなります。
自社の試算表がどちらの作り方か、確かめる方法
税理士事務所に、次の3つを聞いてみてください。
- 減価償却費は、毎月の試算表に月割で入っていますか
- 在庫は、毎月(または四半期ごとに)月末の金額で計上していますか
- 賞与は、支給予定額を毎月の人件費に割り振っていますか
3つとも「いいえ」でも、作り方が間違っているわけではありません。月次の手間を省く作り方として一般的にあるものです。ただ、その場合は試算表の利益をそのまま経営判断に使わず、上の表のように自分で補正して読む必要があります。在庫は毎月数えるのが難しければ、四半期ごとに数えるだけでも振れはかなり小さくなります。