公開日:2026年8月26日 更新日:2026年9月19日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
【2026年8月26日時点の適用期限】適用期限は2026年度末(令和9年3月31日)までです(中小企業庁)。この日までに設備を取得し、事業の用に供する必要があります。決算期によっては「今期しか使えない」会社もありますので、日付から逆算してください。
「機械を入れ替えようと思うんだけど、何か税金が安くなる制度はないの」。設備投資のご相談を受けると、たいていこの質問が出てきます。補助金の話に流れがちなのですが、認定も計画も要らずに使えて、しかも申請の手間がほとんどない制度が先にあります。それが中小企業投資促進税制です。
結論から言えば、中小企業投資促進税制とは、中小企業者等が160万円以上の機械装置などを新品で取得して指定事業に使った場合に、取得価額の30%の特別償却か7%の税額控除を選べる制度です。税額控除を選べるのは個人事業主と資本金3,000万円以下の法人だけで、資本金3,000万円超1億円以下の会社は特別償却しか選べません(中小企業庁)。ここが最初の分かれ道です。
私は元銀行員で法人融資の審査に携わり、いまは中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨を中心に設備投資や融資のご相談に乗っています。この制度について、税理士の先生が書いた解説はすでにたくさんあります。私があえて書き足したいのは、特別償却を選ぶと決算書の利益が先に減るので、翌年に融資を受けたい会社は銀行の評価で損をしかねないという一点です。税の損得だけで選んだ結果、資金調達で困る会社を何度か見てきました。
中小企業投資促進税制とは?計画も認定もいらない設備投資の優遇税制
この制度は、対象になる設備を買って自社の事業に使えば、確定申告の書類を整えるだけで使えます。事前の計画認定や証明書は要りません。ここが、あとで比べる中小企業経営強化税制との最大の違いです。
中小企業庁が示している制度の骨格は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
| 措置の内容 | 取得価額の30%の特別償却 または 7%の税額控除(選択適用) |
| 税額控除が使える人 | 個人事業主、資本金3,000万円以下の法人、農業協同組合等、商店街振興組合 |
| 特別償却だけの人 | 資本金3,000万円超1億円以下の中小企業 |
| 対象者 | 中小企業者等(資本金1億円以下の法人など)、従業員1,000人以下の個人事業主。いずれも青色申告が前提 |
| 適用期限 | 2026年度末(令和9年3月31日)までに取得し、指定事業の用に供すること |
| 事前手続き | なし(確定申告書に明細書を添付) |
根拠となる条文は、法人税は租税特別措置法第42条の6、所得税は同法第10条の3です。「うちは法人じゃないから関係ない」ということはなく、青色申告をしている個人事業主も対象になります。
ひとつだけ、対象から外れる例外があります。前3年の所得金額の年平均額が15億円を超える法人(適用除外事業者)は、資本金が1億円以下でもこの制度を使えません(国税庁)。中小企業の実務ではまず当たらない要件ですが、急成長した会社は確認が必要です。
特別償却30%と税額控除7%は、結局どっちが得なのか?
この制度で一番多い質問がこれです。先に結論を書くと、数年単位の税負担を最小にしたいなら税額控除、今期の手元資金を最優先するなら特別償却です。理由は、両者の性質がまったく違うからです。
- 特別償却は「税の繰り延べ」です。初年度に30%を上乗せして償却できますが、そのぶん翌年以降の償却費が減ります。耐用年数を通した償却総額は変わらないので、トータルの税負担は減りません。早く落とせる、というだけです。
- 税額控除は「純粋な減税」です。償却費はいつもどおりに計上したうえで、算出された法人税額そのものから7%を差し引きます。減った税金は戻ってきません。
1,000万円の機械を買った場合で計算してみる
耐用年数10年・定額法、期首に1,000万円の機械装置を取得した会社を例にします。法人税等の実効税率を仮に30%として並べます(実際の税率は所得の水準や地方税で変わりますので、あくまで比較のための仮定です)。
| | 特別償却30% | 税額控除7% |
| 初年度の償却費 | 普通償却100万円+特別償却300万円=400万円 | 普通償却100万円 |
| 初年度の税負担の軽減 | 300万円×30%=約90万円 | 70万円(1,000万円×7%) |
| 10年トータルの軽減 | 0円(翌年以降に取り戻される) | 70万円(そのまま残る) |
| 決算書の利益 | 初年度に300万円減る | 変わらない |
初年度だけを見れば特別償却の90万円が勝ちますが、これは翌年以降に返す前借りです。10年で見ると、手元に残るのは税額控除の70万円だけになります。私がご相談を受けたときは、まずこの表を書いて「どちらを取りに行くか」を先に決めていただきます。
税額控除には「使い切れない」上限がある
税額控除には上限があります。この制度の税額控除と、中小企業経営強化税制(措置法42条の12の4)の税額控除の合計で、その事業年度の調整前法人税額の20%までです(国税庁)。控除しきれなかった分は1年間だけ繰り越せます。
これを逆算すると、判断の目安がはっきりします。70万円の税額控除を初年度に使い切るには、調整前法人税額が350万円以上(70万円÷20%)必要という計算です。ここに届かない会社は、繰越の1年を含めても控除しきれない可能性があります。段階で整理すると、次のようになります。
| 自社の状況 | 現実的な選択 |
| 資本金3,000万円超1億円以下 | 特別償却の一択(税額控除は選べない) |
| 資本金3,000万円以下・今期も来期以降も安定して黒字 | 税額控除。トータルの税負担が確実に減る |
| 資本金3,000万円以下・今期だけ利益が突出/手元資金を厚くしたい | 特別償却。今期のキャッシュを優先する判断 |
| 赤字、または法人税額が控除額の5倍に届かない | どちらも効きにくい。繰越(1年)でも吸収できるか試算してから決める |
個人事業主の場合、特別償却と税額控除の選び方は変わるのか?
変わります。個人事業主は資本金の線引きがないので両方から選べますが、損得の計算が法人と2か所で違います。上の表は法人を前提にしているため、個人事業主の方がそのまま当てはめると判断を誤ります。
- 税額控除の上限の基準が「事業所得に対応する所得税額」になる。控除できるのは、その年の調整前事業所得税額の20%までです(租税特別措置法第10条の3第3項)。調整前事業所得税額とは、住宅ローン控除などの税額控除を差し引く前の所得税額のうち、事業所得に対応する部分です(同法施行令第5条の3第7項)。住民税は基準に入りません。
- 特別償却は所得そのものを減らすので、所得税以外にも効く。住民税の所得割は所得税の計算の例で出した所得をもとに課税され(地方税法第313条第2項)、国民健康保険料(市町村によっては国民健康保険税)の所得割も、その所得から基礎控除を引いた金額で計算されます(国民健康保険法施行令第29条の7)。一方で税額控除は所得税の額から差し引く仕組みなので、所得は減らず、住民税と国保の保険料は下がりません。
課税所得500万円の個人事業主が1,000万円の機械を買うと
先ほどと同じ1,000万円・耐用年数10年・定額法の機械で、事業所得だけの個人事業主(普通償却後の課税所得500万円、毎年ほぼ同じ所得が続く)を仮定して計算しました。所得税は国税庁の速算表で出し、住民税の所得割は標準税率の10%(市町村民税6%+道府県民税4%。地方税法第314条の3・第35条)で計算しました。住民税は所得控除の額が所得税と違うので課税所得は一致しませんが、削った300万円がまるごと10%で効く前提です。復興特別所得税と国保は含めていません。
| | 特別償却30% | 税額控除7% |
| 初年度の所得税 | 課税所得200万円に下がり、57万2,500円→10万2,500円(47万円減) | 控除の上限は57万2,500円×20%=11万4,500円 |
| 初年度の住民税(所得割) | 標準税率10%で300万円×10%=約30万円減 | 変わらない |
| 2年目以降 | 7年目で償却が終わり、8〜10年目は償却費がゼロ。その3年は所得が毎年100万円増え、所得税が計60万円増える | 使い切れなかった58万5,500円を翌年に繰り越せる。翌年も所得が同じで新しい設備の控除がなければ、上限はまた11万4,500円。残る47万1,000円は消える |
| 10年トータル | 所得税は約13万円の負担増、住民税は増減なし | 所得税が22万9,000円の減税 |
表の数字で目を引くのは2つです。ひとつは、額面70万円の税額控除のうち、この規模の個人事業主が使えるのは2年で22万9,000円までだということ。70万円を1年で使い切るには調整前事業所得税額が350万円必要で、事業所得だけの方なら課税所得が約1,526万円(税率33%の帯)に届いていないと足りません。給与や不動産の所得もある方は、上限の基準が事業所得の割合に按分されるので、さらに小さくなります。
もうひとつは、特別償却が「前借り」どころか、トータルでは損になりうることです。法人税の税率はほぼ一定ですが、所得税は5%から45%までの累進です。この例では、初年度に削った300万円のうち130万円は税率10%の帯の所得で、償却が終わって所得が戻ってくる8〜10年目は20%の帯で課税されます。安い税率の所得を削って、高い税率で取り戻される形です。
そこで個人事業主の方には、次の順番で考えることをおすすめしています。
- まず税額控除の上限(調整前事業所得税額×20%)を前年の申告書から概算し、7%のうち何割が実際に使えるかを出す
- 今年の所得が例年より突出して高く、翌年以降は税率の帯が下がる見込みなら、特別償却で高い帯を削る価値がある
- 所得が毎年安定しているなら、特別償却で低い帯まで削りすぎないようにする。個人の減価償却は普通償却の額を下回れませんが、特別償却は30%の範囲内で必要経費に入れる額を選べ、入れなかった分は翌年に繰り越せます(同条第1項・第2項)
国保まで含めると損得がもう一段動きますが、国保の料率は市町村ごとに違い、家族の人数でも変わります。法人成りの相談で国保と社会保険を比べるときも、結論は「世帯によって微妙」になることが多く、同じ理由で一律の答えは出せません。お住まいの市町村の料率で1回試算してから決めてください。
付け加えると、税額を下げることだけを目的に設備を選ぶのはおすすめしません。税金を嫌って経費を使い切る事業者は、ある程度のところで伸びが止まる傾向があります。制度は「どのみち必要な設備を買うときに、どちらで受けるか」を決める道具として使うのが実務的です。
なぜ「税金で得か」だけで決めると、銀行の評価で損をするのか?
ここからが、私が一番お伝えしたい部分です。上の比較には、税理士の先生の解説にはあまり出てこない軸がもうひとつあります。決算書がどう見えるかです。
特別償却を選ぶと、初年度の利益が300万円減ります。税金は減りますが、銀行に出す決算書の当期純利益も、そのぶん薄くなります。金融機関は決算書から自己資本比率や債務償還年数を計算し、内部で格付を付け、その結果として債務者区分を決めています。利益が薄い決算は、この計算式のなかで確実に不利に働きます。
審査をしていた立場から正直に言えば、銀行員も特別償却の存在は知っています。ですから決算書の内訳を見て「これは特別償却か」と気づけば、実質の利益に引き直して見ます。問題は、気づいてもらえるかどうかが説明次第だということです。決算書と申告書だけを郵送して終わりにしてしまうと、そこまで丁寧に見てもらえる保証はありません。
この点は、旅館業のお客さまの決算を一緒に読んだときに、はっきりと形になりました。営業利益はマイナス710万円でしたが、減価償却費が811万円あったので、現金でみれば100万円ほど残っている計算でした。償却費は現金が出ていかない費用なので、赤字の見た目とお金の動きは一致しません。特別償却はその「見た目と現金のズレ」を、自分から意図的に大きくする行為です。
ですから実務としては、次の順番をおすすめしています。
- 翌年〜翌々年に融資を受ける予定があるかを先に確認する
- 予定があるなら、税額控除を選べる会社は税額控除を優先する(決算書の利益が減らない)
- 資本金の関係で特別償却しか選べないなら、決算書を持参して「この期は特別償却で◯◯万円を上乗せしています」と口頭でも書面でも先に伝える
- 簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)で返済余力を示す資料を1枚添える
4番目が効きます。返済余力を見るときの物差しは利益ではなく簡易キャッシュフローで、特別償却を使っても簡易キャッシュフローの金額はほとんど動きません(利益が減った分だけ償却費が増えるため)。この一枚があると、話が早く済みます。資金繰りの見せ方は「資金繰り表の作り方」でも整理しています。
どの設備が対象になり、どれが対象外なのか?
対象設備は5種類です。金額の下限がそれぞれ違うので、見積書が届いた段階で当てはめてみてください。
| 設備の種類 | 取得価額の要件 |
| 機械および装置 | 1台または1基が160万円以上 |
| 測定工具および検査工具 | 1台または1基が120万円以上(下限額以上のものを合計して120万円以上でも可。下限額は後述) |
| 一定のソフトウェア | 1つが70万円以上(その事業年度の合計額が70万円以上でも可) |
| 貨物自動車 | 車両総重量3.5トン以上の普通自動車で、貨物の運送に使うもの |
| 内航船舶 | 取得価額の75%が対象 |
逆に、次のものは対象外です。ここを取り違えたまま話が進んでしまうことがあるので、先に潰しておきます。
- 中古品。新品であることが条件です。中古の機械を安く買う判断そのものは合理的ですが、この制度は使えません。
- 貸付の用に供する設備。他社に貸すために買った設備は対象外です(内航船舶の貸渡し事業を除く)。令和3年度改正で不動産業・物品賃貸業が指定事業に加わりましたが、貸付資産が対象になったわけではありません。
- パソコン・デジタル複合機・試験測定機器。平成29年度改正で器具備品が対象から外れました。パソコンを入れ替えたい場合は中小企業経営強化税制の側で検討することになります。
- コインランドリー業の機械装置。主要な事業である場合を除き、管理のおおむね全部を他人に委託するものは対象外です。
- 匿名組合契約等の目的である事業に使う設備
ソフトウェアは「70万円以上なら何でもいい」わけではない
ソフトウェアは金額の壁が70万円と低く、使いやすい枠です。ただし中身の条件があります。複写して販売するための原本と開発研究用のものは除かれ、さらにサーバー用OS・サーバー用仮想化ソフトウェア・データベース管理ソフトウェア・連携ソフトウェア・不正アクセス防御ソフトウェアについては、ISO/IEC 15408に基づく評価・認証がないものは対象外です(中小企業庁Q&A)。認証の有無はソフトウェアメーカーに確認してください、というのが中小企業庁の案内です。基幹システムや生産管理システムの導入を検討している会社は、見積を取る段階でメーカーに一言聞いておくと後で慌てずに済みます。
測定工具・検査工具の下限額は、公式サイト間で表記が食い違っている
これは書くかどうか迷ったのですが、実務で困る箇所なので正直に書きます。測定工具・検査工具を「合計して120万円以上」で判定する場合の1台あたりの下限額について、2026年8月26日時点で、中小企業庁のページは40万円以上、国税庁のタックスアンサーNo.5433は30万円以上と表記が分かれています。中小企業庁の令和7年度版パンフレットも30万円でした。
ただし、国税庁のタックスアンサーNo.5433には「令和7年4月1日現在法令等」と明記されています。つまりこのページは令和7年4月1日時点の法令に基づく記載で、令和8年度の税制改正はまだ反映されていない可能性が高い、ということです。より新しいのは中小企業庁のページの40万円という読み方になります。それでも、合計判定で120万円を組み立てる予定がある場合は、取得の時点で顧問税理士か所轄の税務署に確認してください。公式サイト同士の表記が割れているときは、自分で確かめておくのが一番安全です。なお、120万円以上の1台で判定する分にはこの論点は関係ありません。
単品の判定は「通常一単位として取引される単位」で行う
「160万円に少し足りない」というときによく効く論点です。中小企業庁のQ&Aは、判定は通常一単位として取引される単位ごとに行うとしたうえで、本体と同時に設置する自動調整装置や原動機のような附属機器で、本体と一体になって使うものがある場合は、附属機器を含めて判定できるとしています。また取得価額には、購入代価だけでなく引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税といった外部付随費用と、据付費・試運転費などの内部取付費用も含みます(減価償却資産として計上されるものに限る)。見積書の「本体価格」だけを見て諦めていた会社が、据付費を足したら要件を満たしていた、ということは起こります。
中小企業経営強化税制とは何が違うのか?
検索で最も多く聞かれているのが、この2つの違いです。並べると、性格がはっきり分かれます。
| | 中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 |
| 事前手続き | 不要 | 経営力向上計画の認定が必要(設備の取得前が原則) |
| 優遇の中身 | 30%特別償却 または 7%税額控除 | 即時償却 または 7%〜10%の税額控除 |
| 対象設備 | 機械装置・測定検査工具・ソフトウェア・貨物自動車・内航船舶 | 上記に加えて器具備品・建物附属設備なども対象になり得る |
| 難しさ | 申告だけで完結する | 証明書の取得や計画作成の手間と日数がかかる |
優遇の大きさでは経営強化税制が上ですが、設備を先に買ってしまうと間に合わないことがあるのが経営強化税制の難しさです。逆に投資促進税制は、決算のときに気づいても間に合います。「もう機械を入れてしまった」という段階でご相談をいただいたとき、まだ手が残っているのはたいてい投資促進税制のほうです。
なお両制度は完全に自由に選べるわけではなく、経営強化税制のE類型の適用を受ける場合、そのE類型の投資計画の期間中は投資促進税制を使えません(中小企業庁)。制度の詳しい要件は「中小企業経営強化税制とは」、その前提になる計画については「経営力向上計画とは」で解説しています。設備を買う前の段階なら、まず経営強化税制が使えないかを検討し、間に合わないと分かった時点で投資促進税制に切り替える。この順番が実務的です。
補助金を使って買った設備でも使えるのか?
使えます。ただし、金額の判定が落ちるという落とし穴があります。
中小企業庁のパンフレットは、補助金を受けた設備も原則として対象になるとしたうえで、法人税法上の圧縮記帳の適用を受けた場合は、圧縮記帳後の金額が税務上の取得価額になると明記しています。積立金方式を使った場合も、税務上の取得価額は補助金額等を差し引いた価額です。さらに、補助金の交付年度が翌事業年度になる場合は、予定交付額を差し引いた価額が税額控除の対象金額になります。
具体的に言えば、200万円の機械を補助率2分の1の補助金で買い、圧縮記帳を適用すると、税務上の取得価額は100万円です。160万円の壁を割ってしまうので、投資促進税制は使えなくなります。「補助金も取れたし税制も使える」と二重に見込んで資金計画を立てていると、あとで数字が合いません。圧縮記帳の仕組みは「補助金の圧縮記帳とは」で詳しく扱っています。
もうひとつ、補助金の側が併用を制限している場合があります。中小企業庁も「利用された補助事業の公募要領等をご確認ください」と注意を促しています。ものづくり補助金のように設備投資が中心の補助金を使う予定があるなら、公募要領の該当箇所を先に読んでおいてください。
令和8年度税制改正で、この制度は変わったのか?
経済産業省が公表した令和8年度税制改正の資料を確認したかぎり、中小企業投資促進税制そのものは改正項目に挙がっていません。適用期限も令和9年3月31日のままです。ただし、周辺は動いています。
- 少額減価償却資産の特例が拡充されました。中小企業者等が取得した減価償却資産を取得時に全額損金算入できる特例について、単価上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、適用期限が3年間延長されました(合計300万円までの限度は据え置き。適用期限は令和10年度末まで)。40万円未満の設備は、そもそもこの特例で全額落とせます。
- 「大胆な投資促進税制」が創設されました。建物を含む即時償却や7%の税額控除を認める新しい制度が創設されました。ただし投資下限額は35億円以上(中小企業者等でも5億円以上)、ROI15%以上という要件で、令和11年3月31日までに設備投資計画について法律に基づく確認を受ける必要があります。名前は似ていますが、中小企業の通常の設備投資とは別の世界の制度です。
設備投資の金額帯ごとに整理すると、40万円未満は少額減価償却資産の特例(20万円未満なら一括償却資産による3年均等償却も選べます)、機械装置なら160万円以上・ソフトウェアなら70万円以上がこの投資促進税制、という住み分けになります。40万円から160万円のあいだの機械装置や、金額を問わず対象外になる器具備品は、この制度では拾えません。ここを埋めたい場合は、工具・器具備品なら30万円以上、建物附属設備なら60万円以上が対象になる中小企業経営強化税制の側で検討することになります(中小企業庁・令和7年度版パンフレット)。
手続きは何をすればいいのか?
事前申請がない代わりに、確定申告での書類の付け忘れがそのまま失権につながります。
- 特別償却——確定申告書等に、償却限度額の計算に関する明細書を添付します。
- 税額控除——控除を受ける金額を確定申告書等に記載し、その金額の計算に関する明細書を添付します。
リース取引の場合は扱いが分かれます。ファイナンスリースは対象になりますが、所有権移転外ファイナンスリースについては税額控除のみ利用可能で、特別償却は使えません。控除額は毎年のリース料ではなくリース資産額をベースに計算します。オペレーティングリースは対象外です。
最後に、これは制度の話ではなく設備投資そのものの話です。私は醸造設備の投資をご相談いただいたとき、「作れるか」ではなく「売れるか」を着手の条件にしましょう、とお伝えしました。販売の目処が立った量だけ能力を足していけば、稼働率が上がらないまま資金を寝かせる事態を避けられるからです。税制はあくまで、買うと決めた設備の負担を軽くする道具です。30%の特別償却は、投資の判断を変えるほどの大きさではありません。順番を逆にしないでください。
よくある質問
設備を買った期に赤字だった場合、特別償却はどうなりますか?
特別償却によって生じた欠損金は、青色申告法人であれば繰越欠損金として翌期以降に繰り越せます(中小法人は10年間)。ただし、赤字の期にあえて特別償却を上乗せすると、決算書の見た目はさらに悪くなります。銀行取引がある会社は、繰越せるからという理由だけで機械的に選ばないほうがよいと考えています。なお税額控除のほうは、そもそも法人税額が出ていなければ控除する対象がありません。
期の途中で買った設備でも、30%の特別償却は満額使えますか?
普通償却は月割りになりますが、特別償却限度額は基準取得価額の30%相当額であり、月割りの規定は置かれていません。ただし、その事業年度中に取得しただけでは足りず、指定事業の用に供していることが要件です。期末ぎりぎりに納品されて据付・試運転が翌期にずれ込むと、その期には使えません。納期が読めない設備は、供用開始日を先に押さえておいてください。
うちの業種は対象になりますか。除かれる業種はどれですか?
この制度は「指定事業」に使う設備が対象で、製造業・建設業・農林漁業・鉱業・卸売業・小売業・道路貨物運送業・倉庫業・情報通信業・不動産業・物品賃貸業・宿泊業・医療福祉業・教育学習支援業など、幅広い業種が入っています。一方で、電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)は対象になりません(中小企業庁・令和7年度版パンフレット)。性風俗関連特殊営業も除かれます。飲食店業は対象ですが、料亭・バー・キャバレー・ナイトクラブなどは生活衛生同業組合の組合員が行うものに限られます。線引きが微妙な業態は、国税庁のタックスアンサーNo.5433の指定事業の一覧で自社の事業を確認してください。
個人事業主でも使えますか。従業員数の条件は何人ですか?
使えます。青色申告をしている常時使用する従業員数1,000人以下の個人事業主が対象で、根拠条文は租税特別措置法第10条の3(所得税)です。個人事業主は資本金という概念がないため、法人と違って税額控除も特別償却も両方選べます。資本金3,000万円という線引きで不利になるのは法人だけです。
この制度を使うと、税務調査で目を付けられませんか?
制度どおりに使っているかぎり、それ自体が調査の呼び水になるという性質のものではありません。実務で論点になりやすいのは、対象設備に該当するかどうか(特にソフトウェアと器具備品の線引き)、指定事業に使っているかどうか、供用開始日がいつか、の3点です。見積書・納品書・検収記録・設置写真といった、供用開始日を裏づける資料を残しておけば、説明で困ることはあまりありません。
設備投資は、税制の選び方より前に「その投資が返せるか」で決まります。当社は融資を審査していた側にいた元銀行員として、設備投資の資金計画と、決算書を銀行にどう説明するかまで一緒に組み立てています。まずは融資・資金調達の支援サービスをご覧いただき、無料相談はこちら(お問い合わせフォーム)からお気軽にご連絡ください。
監修:池田哲郎。八十二銀行で法人融資の審査・経営改善支援に従事し、事業計画や決算を「審査する側」として100件超を見てきた経験を持つ。現在は中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨県で融資・補助金・設備投資の支援を行う。本記事の制度情報は、中小企業庁「中小企業投資促進税制」、国税庁「No.5433 中小企業投資促進税制」(令和7年4月1日現在法令等)、中小企業庁「中小企業税制パンフレット(令和7年度版)」、経済産業省「令和8年度税制改正について(概要)」の公表内容(2026年8月26日確認)に基づきます。税額の計算例は比較のための仮定を置いたものです。個別の適用可否と有利不利の判断は、顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。
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