公開日:2026年7月14日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「設備を入れるなら経営力向上計画を出しておくといい、と税理士さんに言われた」。設備投資のご相談をいただくと、この話がよく出てきます。ところが中身を聞いてみると、名前だけ知っていて、何が得なのか、いつまでに出せばいいのかは分からないまま止まっている。そういう社長さんが本当に多い制度です。
結論から言えば、経営力向上計画とは、人材育成や設備投資などで自社の経営力を高める取組をまとめ、国の認定を受ける計画のことです。認定されると税制措置・金融支援・法的支援が受けられます。根拠法は中小企業等経営強化法で、認定するのは事業分野ごとの主務大臣です(本記事は2026年7月時点の中小企業庁の公表資料に基づきます。数値・期限は必ず最新の公式資料でご確認ください)。
私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わったあと、中小企業診断士として独立し、認定経営革新等支援機関として設備投資や補助金のご相談を受けています。その経験から先にお伝えしておきたいことがあります。この制度でいちばん多い失敗は、計画の中身ではなく「順番」を間違えることです。設備を買ってから相談に来られると、もう手遅れになっている場合があります。この記事では、制度の中身と合わせて、その順番の話を実務レベルで書きます。
経営力向上計画とは何か?
経営力向上計画は、人材育成、コスト管理、財務管理、設備投資といった取組で自社の経営力を底上げする計画を作り、国の認定を受ける制度です。中小企業庁は「人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するために実施する計画」と説明しています。
認定を受けられるのは、中小企業等経営強化法第2条第6項の「特定事業者等」です。会社だけでなく個人事業主も対象で、常時使用する従業員数が2,000人以下であることが基本の線引きになります(法人形態によって扱いが異なるため、詳細は中小企業庁の手引きをご確認ください)。
計画に書く期間は、計画開始の月から起算して3年(36か月)・4年(48か月)・5年(60か月)のいずれかを選びます。分量としては、企業の概要、現状認識、経営力向上の目標、実施事項などを所定の様式に記入する形で、補助金の事業計画書のような長文を書かされるものではありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 中小企業等経営強化法 |
| 対象 | 特定事業者等(常時使用する従業員数2,000人以下が基本。個人事業主も可) |
| 認定する人 | 事業分野ごとの主務大臣(提出先が業種で変わります) |
| 計画期間 | 3年・4年・5年のいずれか |
| 受けられる支援 | 税制措置・金融支援・法的支援(+補助金での優先採択) |
計画は「事業分野別指針」(自社の業種に指針がなければ「基本方針」)を踏まえて作ります。目標として使う代表的な指標が労働生産性で、計画期間に応じた伸び率を書き込みます。
認定を受けると、何が得られるのか?
中小企業庁は支援措置を3種類に整理しています。設備投資で使われるのは、ほぼ税制措置です。
| 支援措置 | 中身 |
|---|---|
| 税制措置 | 認定計画に基づいて取得した一定の設備について、法人税の即時償却、または取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除を選べます(中小企業経営強化税制) |
| 金融支援 | 日本政策金融公庫の融資、民間金融機関の融資に対する信用保証の別枠、債務保証など |
| 法的支援 | 業法上の許認可の承継の特例、組合の発起人数の特例など |
これに加えて、中小企業庁の手引きは認定のメリットとして「認定事業者に対する補助金における優先採択」を挙げています。実際、補助金の公募要領で加点項目に置かれることがあります(どの補助金で加点になるかは公募回ごとに変わるため、必ずその回の公募要領でご確認ください)。
税制措置について、実務でよく効くのは即時償却のほうです。設備の取得価額を初年度に全額損金にできるので、利益が出ている年度に設備を入れるなら効果が大きい。ただし税額控除には上限があり、中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制の控除額の合計で、その事業年度の法人税額の20%までと決まっています(超えた分は翌事業年度に繰り越せます)。
金融支援は、正直なところ「これ目当てで認定を取る」というものではありません。信用保証の別枠が使えるといっても、保証枠に余裕がある会社にはあまり意味がない。ただ、事業承継や大きな設備投資で資金調達額が張るときには、選択肢として頭の隅に置いておく価値はあります。
「認定率は何%ですか」という質問が成り立たない理由
ご相談の場で必ず聞かれるのが「これ、採択率はどれくらいなんですか」です。補助金の話と地続きで聞こえるので当然の疑問なのですが、経営力向上計画は、応募者を競わせて上位を選ぶ制度ではありません。法律の要件に適合した計画であれば認定される、いわば申請型の制度です。だから「採択率○%」という数字がそもそも存在しません。
ここは補助金とはっきり違うところです。補助金は公募回ごとに予算があり、審査員が点数を付けて上から採択していきます。落ちる人が必ずいる。一方で経営力向上計画は、事業分野別指針に沿って、目標と実施事項が筋の通った形で書かれていれば通ります。書類に不備があれば補正を求められる、という性質のものです。
だから力の入れどころが変わります。補助金の事業計画は「他社より優れていること」を書く文章ですが、経営力向上計画で問われるのは「要件を満たしているか」と「手続きの順番が正しいか」です。私の経験では、この制度でつまずく方の理由はほぼ後者に集中しています。
設備を先に買ってしまった場合はどうなる?
原則は「認定を受けてから設備を取得する」です。中小企業庁のQ&Aも、工業会証明書(A類型)または経済産業大臣の確認書(B・D・E類型)を取得したうえで法の認定を受け、そのあとに対象設備を取得するのが「原則の流れ」だとはっきり書いています。
とはいえ現実には、いい機械が出たので押さえた、納期の都合で先に契約した、という順番はいくらでも起こります。そのための例外措置が、いわゆる60日ルールです。
ここで多くの解説記事が「取得日から60日以内に申請すればセーフ」と書いて終わっています。実務では、そこがいちばん危ない。中小企業庁のQ&Aを読むと、関門は2つあるからです。
- 関門1:設備取得日から60日以内に、計画申請書が行政庁に到達していること
- 関門2:その設備を取得して事業の用に供した事業年度内に、認定まで受けていること(当該事業年度を超えて認定を受けた場合、税制の適用は受けられません)
認定には標準処理期間として約30日かかります。つまり決算日の直前に設備を入れて、あわてて60日以内に申請書を出したとしても、認定が翌期にずれ込めばアウトです。60日という数字だけを覚えていると、この2つ目の関門で足をすくわれます。
さらに、D類型とE類型では、そもそもこの例外措置が使えません(認定後に設備を取得する必要があります)。
| 順番 | 税制の適用 | 注意点 |
|---|---|---|
| 認定 → 設備取得(原則) | ○ | 証明書・確認書の取得にも時間がかかるため、逆算して動く |
| 設備取得 → 60日以内に申請到達 → 同一事業年度内に認定 | ○(例外措置) | A・B類型のみ。決算日との距離を必ず確認する |
| 設備取得 → 60日以内に申請 → 認定が翌事業年度に | × | 60日を守っても適用不可 |
| 設備取得から61日以上経ってから申請 | × | 取り返しがつかない |
| D類型・E類型で先に設備取得 | × | 例外措置の対象外 |
設備投資の相談で私が最初に聞くのは、機械の話ではなく「御社の決算月はいつですか」と「発注はもう出しましたか」です。順序を先に押さえないと、あとの話が全部ひっくり返るからです。
どの類型で申請すればいいのか?
中小企業経営強化税制の類型は、A・B・D・Eの4つです(かつてあったC類型は現在の手引きには置かれていません)。設備の性格と、どこから証明書をもらうかで分かれます。
| 類型 | 設備の性格 | 要件のイメージ | 証明・確認 |
|---|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 生産性が年平均1%以上向上する設備 | 工業会等の証明書 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 年平均の投資利益率が7%以上となるパッケージ投資 | 経済産業局の確認書 |
| D類型 | 経営資源集約化に資する設備 | 事業承継等を伴う投資(修正ROA等で判定) | 経済産業局の確認書 |
| E類型 | 経営規模拡大設備等 | 建物も対象になる拡大投資 | 経済産業局の確認書 |
いちばん使われるのはA類型です。メーカーに「この機械、経営力向上計画の証明書は出ますか」と聞けば、たいてい話が通じます。証明書の発行にも時間がかかるので、設備を選ぶ段階で聞いておくのが安全です。
対象になる設備には金額の下限があります。中小企業庁の手引きでは、機械装置は160万円以上、工具は40万円以上、器具備品は40万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウエアは70万円以上です。A類型では販売開始からの年数(機械装置なら10年以内など)も要件になります。
なお、税制措置を使えるのは指定事業に限られます。製造業・建設業・小売業・宿泊業・情報通信業など幅広く入っていますが、電気業、水道業、鉄道業、銀行業、映画業を除く娯楽業などは対象外です。設備の取得時期も、平成29年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までの指定期間内である必要があります。
どこに、どうやって出すのか?
提出先は事業分野ごとの主務大臣です。ここが補助金と大きく違う点で、業種によって出す先の省庁が変わります。製造業なら経済産業局、建設業なら国土交通省というように分かれるので、まず日本標準産業分類で自社の事業分野を確認し、中小企業庁のサイトにある「事業分野と提出先」で出し先を調べるのが最初の作業になります。
申請は「経営力向上計画申請プラットフォーム」からの電子申請が基本です。GビズIDを使います。標準処理期間は次のとおりです。
- 紙・通常の申請:約30日(所管する省庁が単一の場合。複数省庁にまたがる場合は約45日)
- プラットフォームからの電子申請(経済産業部局宛てのみ):約14日(休日等を除く)
不動産取得税の軽減措置や許認可承継の特例を使う場合は、関係行政機関での評価・判断が加わるため、さらに日数がかかります。認定が下りると、主務大臣から計画認定書と計画申請書の写しが交付されます。
実務としては、この「約30日」を甘く見ないことです。工業会の証明書に2週間、認定に1か月とみると、設備を動かしたい日から逆算して2か月前には手を付けている必要があります。
補助金や固定資産税とは、どう組み合わせるのか?
設備投資では補助金と併用したくなりますが、税制との関係で見落としがちな点があります。中小企業庁のQ&Aは、国や地方公共団体から補助金を受けて設備を取得した場合、税務上の取得価額は補助金額等を差し引いた価額になると説明しています(圧縮記帳の適用を受けた場合は圧縮記帳後の金額)。補助金が翌事業年度の交付になる場合は、予定交付額を差し引いた価額が税額控除の対象になります。
つまり「1,000万円の機械に500万円の補助金が出た」なら、即時償却や税額控除の計算の土台になるのは1,000万円ではありません。節税額を先に見込んで資金繰りを組むと、あとで数字が合わなくなります。加えて、補助金の側で税制との併用を制限している場合があります。これも中小企業庁が注意喚起している点なので、その補助金の公募要領を確認してください。
もうひとつ、よくある混同が固定資産税です。設備の固定資産税を軽くしたい場合、使う制度は経営力向上計画ではなく「先端設備等導入計画」です。こちらは市町村が認定する別の制度で、認定支援機関の確認が必要になります。名前が似ていて、どちらも設備投資の計画なので混ざりやすいのですが、認定する主体も、得られるものも違います。法人税を軽くしたいのか、固定資産税を軽くしたいのかで、出す先が変わると考えてください。
補助金そのものを検討中なら、山梨県の中小企業が使える補助金一覧で使える制度を先に見ておくと、設備投資全体の組み立てがしやすくなります。設備系ではものづくり補助金や新事業進出・ものづくり商業サービス補助金が候補になります。
補助金を出すと決めていなくても、認定だけ先に取っておく
最後に、私が実際にお客様へ提案している使い方をひとつ。
設備投資を考えているが補助金に出すかどうかは決めきれない、という段階の社長さんは多い。そういうとき私は「申請するしないにしろ、取れるものは先に取っておきませんか」とお話しします。加点や認定の類は、あとから慌てて取ろうとしても間に合わないものが多いからです。経営力向上計画も、認定まで1か月前後かかる。設備の話が具体化してから動き始めると、たいてい間に合いません。
先に認定を取っておけば、補助金に出すことになったときは加点として効く可能性があり、出さないことにしても即時償却や税額控除は使える。設備を入れる意思が固まっているなら、取っておいて損はしない性質のものです。手続きは正直なところ面倒ですが、面倒な順番を守るかどうかで税金が変わってしまう。それがこの制度の本質だと思っています。
逆に、無理をしてまで使うものではありません。設備を入れる予定がないのに認定だけ取っても、労力に見合いません。設備投資の予定があり、決算日まで余裕があり、利益が出ている。この3つが揃っているなら、検討する価値があります。
池田計画合同会社は、山梨県を拠点とする認定経営革新等支援機関です。代表の池田は、八十二銀行で法人融資の審査に長く携わったのち、中小企業診断士として独立しました。設備投資の順番の設計、経営力向上計画や補助金の使い分け、金融機関への説明まで、審査する側にいた視点でご支援しています。「うちの設備は対象になるのか」「先に発注してしまったが間に合うか」という段階でも構いません。AI補助金診断・補助金支援サービスや認定経営革新等支援機関の解説をご覧いただくか、初回無料の経営相談からお気軽にご連絡ください。
よくある質問
経営力向上計画と経営革新計画は何が違いますか?
目的と認定する主体が違います。経営力向上計画は、人材育成やコスト管理、設備投資などで既存事業の経営力を底上げする計画で、国(事業分野別の主務大臣)が認定します。経営革新計画は、新商品・新サービス・新分野など新たな取組で経営の向上を図る計画で、都道府県(または国)が承認します(中小企業基盤整備機構)。目的が合えば両方を申請することもできます。
認定を受けたあとに設備を追加したくなった場合はどうすればいいですか?
中小企業等経営強化法第18条第1項に基づいて経営力向上計画を変更し、変更認定を受けることで、追加した設備についても税制措置を受けられます。変更認定の際も、追加する設備を計画に記載する必要があります。なお、計画変更で設備を追加する場合も、設備を先に取得したときの60日の扱いは同じです。
認定後に報告や実績報告は必要ですか?
類型によって異なります。B類型では投資計画に関する実施状況報告、D類型では事業の承継に関する報告が求められます。また、所得拡大促進税制の上乗せ措置を使う場合には「経営力向上報告書」の提出が必要です。補助金のような一律の実績報告・精算の手続きがある制度ではありません。
認定書を紛失してしまいました。再発行できますか?
認定書は計画を認定した主務大臣(提出先の行政機関)から交付されるものです。紛失時の取り扱いは提出先によって異なるため、申請した行政機関の窓口に問い合わせてください。税制の適用時には認定書とその申請書の写しを税務申告書に添付するため、原本は必ず保管しておいてください。
個人事業主でも申請できますか?
できます。経営力向上計画の対象となる「特定事業者等」には、常時使用する従業員数が2,000人以下の個人事業主も含まれます。ただし中小企業経営強化税制の適用にあたっては、税制側で別に定められた中小企業者等の要件(常時使用する従業員数1,000人以下の個人など)を満たす必要があります。