公開日:2026年7月23日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「機械を入れ替えるなら、全額その年の経費にできる制度があると聞いた」。設備投資のご相談で、この話が出てくることがよくあります。多くの場合その正体が、この中小企業経営強化税制です。名前は難しいのですが、やっていることは「認定を受けた設備なら、初年度に全額を損金にできる(または税額を直接減らせる)」というものです。
結論から言えば、中小企業経営強化税制とは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が対象設備を取得したとき、即時償却か、取得価額の最大10%の税額控除を選んで受けられる制度です。設備投資の節税策として、いちばん効きやすいものの一つです(本記事は2026年7月時点の中小企業庁・国税庁の公表資料に基づきます。数値・期限・要件は必ず最新の公式資料でご確認ください)。
私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わったあと、中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として設備投資のご相談を受けています。その立場から先に一つだけ言わせてください。この制度は「節税額」から設備投資を決めると、かえって資金繰りを苦しくします。制度の中身と合わせて、審査する側にいた者として気になる「順番」の話も書きます。なお、この税制を使う入口になる経営力向上計画そのものの手続き(いわゆる60日ルールを含む)は、経営力向上計画とは|メリットと申請の流れで詳しく解説しています。
中小企業経営強化税制とは、どんな制度か?
中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて対象設備を取得したときに、即時償却または取得価額の10%(資本金の額等が3,000万円超の法人は7%)の税額控除を選んで適用できる制度です。中小企業庁が制度の概要としてそう説明しています。
大事なのは、この税制が「経営力向上計画の認定」を入口にしている点です。設備だけを見て使える制度ではなく、まず自社の経営力向上計画を国の認定にかけ、その計画に対象設備を書き込む、という手順を踏みます。つまり中小企業経営強化税制は、経営力向上計画という器のなかにある税制優遇だと考えると分かりやすいと思います。
| 項目 | 内容 |
| 根拠 | 租税特別措置法(中小企業等経営強化法の認定が前提) |
| 受けられる優遇 | 即時償却 または 取得価額の10%(資本金3,000万円超の法人は7%)の税額控除 |
| 対象者 | 青色申告の中小企業者等(特定事業者等の認定を受けたもの)。個人事業主も可 |
| 前提手続き | 経営力向上計画の認定(対象設備を計画に記載) |
| 適用期限 | 2026年度末(2027年3月31日)まで ※国税庁の指定期間は令和9年3月31日まで |
指定事業(適用対象となる業種)は決まっていて、事業の性質によっては対象外になるものもあります。飲食・小売・製造・建設・サービスなど幅広い業種が入りますが、自社の事業が指定事業に該当するかは、国税庁のタックスアンサー(No.5434)で確認しておくのが確実です。
即時償却と税額控除、どちらを選ぶ?
この税制のいちばんの分岐点が、即時償却と税額控除のどちらを選ぶかです。性格がまったく違います。
- 即時償却…設備の取得価額を、取得した年度に全額損金にできる。利益が出ている年度なら、その年の課税所得を大きく圧縮できる。
- 税額控除…取得価額の10%(資本金3,000万円超は7%)を、法人税額から直接差し引ける。国税庁の区分では、資本金3,000万円以下の特定中小企業者等が10%、それ以外が7%です。
実務でよく効くのは即時償却のほうです。設備を初年度に全額損金にできるので、利益が出ている年に設備を入れるなら効果が大きい。ただし即時償却は「税金の先送り」で、翌年以降の減価償却費がなくなる分、トータルの税額が減るわけではありません。一方の税額控除は、償却費は通常どおり計上したうえで税額そのものが減るので、複数年で見ると得になることがあります。
税額控除には上限があります。この制度の税額控除と、中小企業投資促進税制の税額控除の合計で、その事業年度の調整前法人税額の20%までと決まっています(国税庁)。控除しきれなかった分は1年間だけ繰り越せます。ですから「取得価額の10%が丸ごと税金から引ける」とは限りません。ここは資金繰りを組むうえで見落としやすい点です。
どんな設備が対象になる?
対象になるのは新品の設備で、生産等設備を構成する減価償却資産のうち、次の取得価額の下限を満たすものです(国税庁 No.5434)。
| 設備の区分 | 1台・1基あたりの取得価額の下限 |
| 機械および装置 | 160万円以上 |
| 工具、器具および備品 | 30万円以上 |
| 建物附属設備 | 60万円以上 |
| 一定のソフトウェア | 70万円以上 |
逆に、対象外になるものもはっきりしています。国税庁は「生産等設備」を、生産・販売・役務提供など収益を稼ぐ活動に直接使う資産だと定義していて、本店・寄宿舎などの建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設はこれに該当しないとしています。つまり社長車や事務所の応接セットは対象になりません。中古設備も新品要件を満たさないため対象外です。貸付けの用に供する資産(他人に貸す設備)も外れます。
細かいところでは、所有権移転外リースで取得した設備は、即時償却(特別償却)は使えませんが、税額控除は使えます。「リースだから一切使えない」と思い込んで機会を逃すケースがあるので、ここは押さえておいてください。
A・B・D・E類型は何が違う?
対象設備は、その性格と「誰から証明書をもらうか」で類型が分かれます。かつてのC類型(デジタル化設備)は2025年4月1日をもって廃止されており、現在はA・B・D・Eの4つです(中小企業庁)。
| 類型 | 設備の性格 | 必要な証明・確認 |
| A類型 | 生産性向上設備 | 工業会等の証明書 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 経済産業大臣の確認書(税理士・公認会計士の事前確認が必要) |
| D類型 | 経営資源集約化に資する設備 | 経済産業大臣の確認書(税理士・公認会計士の事前確認が必要) |
| E類型 | 経営規模拡大設備 | 経済産業大臣の確認書(税理士・公認会計士の事前確認が必要) |
いちばん使われるのはA類型です。導入したい設備のメーカーを通じて、その設備を所管する工業会等から証明書を取り、それを経営力向上計画に添えて申請します。手続きが比較的分かりやすく、多くの汎用設備がここに入ります。B・D・E類型は投資計画を自社で作り、税理士か公認会計士の事前確認を受けたうえで経済産業大臣の確認を取る、という重めの手順になります。設備が工業会証明書の枠に収まるならA類型、収益力や投資利益率で見せる必要があるならB類型以降、というのが大まかな見当のつけ方です。
申請はどういう順番で進むのか?
ここが、審査する側にいた立場からいちばん強調したいところです。原則は「証明書・確認書を取る → 経営力向上計画の認定を受ける → 設備を取得する」という順番です。中小企業庁も、証明書等を取得したうえで計画の認定を受け、そのあとに対象設備を取得するのが原則の流れだと示しています。
問題になりやすいのが、A類型の工業会証明書に時間がかかることです。私が関わった案件でも、証明書の発行に2週間前後、そこから計画の認定に1か月ほどかかることがありました。設備を動かしたい日から逆算すると、実質2か月前には手を付けていないと間に合わないという感覚です。設備の納期が長いものは、なおさら早く着手する必要があります。ある製造業の社長さんの案件では、納期の長い設備と短い設備を分けて、証明書と認定のスケジュールに載せやすいものから段取りを組み直しました。この「長いものから逆算する」発想は、設備系の補助金でも税制でも共通して効きます。
やむを得ず設備を先に取得してしまった場合の救済(取得日から一定期間内に計画を申請する扱い)はありますが、例外的で条件も細かく、原則に頼るのが安全です。この後追いの手続き(60日ルール)については、経営力向上計画の解説記事で具体的に書いていますので、先に発注してしまった方はそちらを確認してください。
補助金や他の税制と併用できるのか?
設備投資では、補助金や他の優遇と組み合わせたくなります。ここにいくつか落とし穴があります。
まず補助金との関係です。国や地方公共団体の補助金を受けて設備を取得した場合、税務上の取得価額は補助金額を差し引いた金額が土台になります(圧縮記帳を適用した場合は圧縮後の金額)。1,000万円の機械に500万円の補助金が出たなら、即時償却や税額控除の計算のもとは1,000万円ではありません。しかも、この制度は圧縮記帳や他の特別償却・他の税額控除との重複適用が認められていません。節税額を先に見込んで資金繰りを組むと、あとで数字が合わなくなるのは、たいていこの差引きを忘れているからです。補助金の側で税制との併用を制限していることもあるので、その補助金の公募要領も必ず確認してください。
もう一つ、2026年度から新設された特定生産性向上設備等投資促進税制との関係です。中小企業庁は、その投資促進税制の適用を受ける投資計画の期間中は、この中小企業経営強化税制の適用を受けられないとしています。大型投資で新しい税制を使う場合は、どちらを取るかの判断が要ります。
設備投資に使える補助金そのものの選び方は、ものづくり補助金の解説やAI補助金診断・補助金支援サービスでご案内しています。税制と補助金は、どちらか一方ではなく「どう組み合わせて、取得価額と資金繰りをどう見るか」で設計するものです。
節税から設備投資を決めていないか?
最後に、制度の話から少し離れます。中小企業経営強化税制は強力ですが、節税を目的に設備投資を決めると、多くの場合その設備は稼ぎません。私は融資の審査で、税金対策で入れた設備が稼働率を上げられず、返済だけが残っている決算書を何度も見てきました。
ある製造業の社長さんに設備投資のご相談を受けたとき、私が最初に確認したのは補助率でも償却の話でもなく、「その設備で作ったものは売れる目処が立っているか」でした。設備は固定費です。需要の裏づけがないまま能力を持つと、稼働率が上がらず資金を寝かせます。「足りなければ足す」ほうが、「作り込んでから外す」より損失は小さい。節税は、投資判断の出口にあるおまけであって、入口の理由にしてはいけない——これは元銀行員としての本音です。
そのうえで、投資すると決めた設備について税制と補助金で手取りを最大化する。順番はこちらです。設備投資の意思決定と資金繰りをセットで見たいときは、資金繰り表の作り方も合わせてお読みください。
池田計画合同会社は、山梨県を拠点とする認定経営革新等支援機関です。代表の池田は、八十二銀行で法人融資の審査に長く携わったのち、中小企業診断士として独立しました。設備投資の順番の設計、経営力向上計画の認定、税制と補助金の使い分け、金融機関への説明まで、審査する側にいた視点でご支援しています。「うちの設備は対象になるのか」「即時償却と税額控除のどちらが得か」という段階でも構いません。AI補助金診断・補助金支援サービスや経営力向上計画の解説をご覧いただくか、初回無料の経営相談からお気軽にご連絡ください。
よくある質問
パソコンやコピー機は対象になりますか?
汎用の事務用機器は原則として対象になりにくいです。国税庁は、事務用器具備品は収益を稼ぐ活動に直接使う「生産等設備」に該当しないと整理しており、一般的な事務用パソコンはここに含まれます。一方、生産ラインや測定・加工に直接使う器具備品で取得価額30万円以上のものは、要件を満たせば対象になり得ます。用途で判断が変わるため、個別には工業会証明書の対象区分で確認してください。
適用期限はいつまでですか?
2026年度末(2027年3月31日)までが適用期限です。国税庁のタックスアンサーでは、指定期間が令和9年(2027年)3月31日までと示されています。期限間際は工業会証明書や計画認定の手続きが混み合うため、期末に設備を動かす予定なら、逆算して数か月前に着手するのが安全です。
賃上げ促進税制と併用できますか?
両者は別の制度なので、それぞれの要件を満たせば併せて使える余地があります。ただし各制度に法人税額に対する控除上限があり、重ねて使う場合は全体の上限のなかでの適用になります。組み合わせの可否と有利不利は決算の数字で変わるため、最終判断は顧問税理士に確認してください(本制度の税額控除は中小企業投資促進税制と合算で法人税額の20%が上限です)。
中古の設備でも使えますか?
使えません。この制度の対象は新品の設備に限られます。中古設備の取得は、たとえ生産に直接使うものでも対象外です。設備更新で中古を検討している場合は、別の償却制度や補助金を含めて選択肢を整理したほうがよいでしょう。
認定支援機関に頼むと何をしてもらえますか?
類型の見極め(A類型で足りるか、B類型以降が要るか)、工業会証明書や経済産業大臣確認のスケジュール逆算、経営力向上計画への設備の書き込み、補助金との取得価額の調整、金融機関への説明まで支援できます。特にB・D・E類型は税理士・公認会計士の事前確認が要るため、早い段階で関与者を決めておくと手戻りが減ります。
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