公開日:2026年6月29日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「設備投資に使える補助金を調べたら、ものづくり補助金と省力化投資補助金の両方が出てきた。どちらを使えばいいのか」——山梨県内の経営者から、よくいただくご相談です。
結論を先にお伝えすると、判断軸は「何のための投資か」です。新しい製品・サービスの開発や生産プロセスの革新が目的ならものづくり補助金、人手不足の解消=省力化が目的なら省力化投資補助金が基本の選び方になります。どちらも設備投資を支援する国の制度ですが、目的・対象設備・補助上限・賃上げ要件が異なります。
私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わってきました。その目線で、両制度の違いと選び方を実務目線で整理します。
先にお伝えすべき大事な変更があります(2026年7月時点)。ものづくり補助金は新事業進出補助金と統合され、単独の制度としての公募はすでに締め切られています(ものづくり補助金は第23次・2026年5月8日締切が最終)。これから申請する場合の受け皿は、統合後の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」(第1回受付:2026年8月31日〜9月30日18:00)か、省力化投資補助金です。両制度の考え方の違いは今も選び方の土台になるため、この記事では違いを整理したうえで、後半の「2026年にこれから申請するなら」で現在の3制度の選び方に落とし込みます。
2つの制度の違い【比較早見表】
まず全体像を一覧で示します。数値は2026年時点の代表的な値で、公募回によって変わります。
| 比較項目 | ものづくり補助金 | 省力化投資補助金 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 革新的な製品・サービスの開発、生産プロセスの改善 | 人手不足の解消(省力化・省人化) |
| 対象設備 | 革新性のある設備投資 | 省力化設備(カタログ製品/オーダーメイド) |
| 補助上限 | 750万〜2,500万円 | 200万〜1億円(型による) |
| 補助率 | 中小1/2・小規模2/3 | 中小1/2・小規模2/3 |
| 賃上げ要件 | 給与支給総額 年平均+3.5%(原則) | 一般型は1人当たり給与支給総額+3.5%が基本要件 |
| 公募方式 | 回次制(〆切ごとに公募) | 一般型は回次制/カタログ注文型は随時受付 |
目的で選ぶ|「開発」か「省力化」か
最も大きな違いは、制度の目的です。
ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセス・サービス提供方法の改善のための設備投資を支援します。「新しい価値を生み出す」ことが主眼です。
省力化投資補助金(中小企業省力化投資補助金)は、人手不足に悩む中小企業が、IoT・ロボット・AI等を活用して業務を自動化・省力化するための設備投資を支援します。「同じ人数で、より多くをこなせるようにする」ことが主眼です。
たとえば「新製品を作るための専用機械を導入したい」ならものづくり補助金、「人手が足りない検品・搬送・受付の工程を自動化したい」なら省力化投資補助金、というイメージです。
省力化投資補助金は2つの型から選ぶ
省力化投資補助金を選ぶ場合、さらに「カタログ注文型」と「一般型」のどちらかを選びます。
- カタログ注文型:登録済みの汎用製品をカタログから選んで導入する、手続きの軽い型。補助上限200万〜1,500万円、補助率1/2以下。詳しくはカタログ注文型の解説記事へ。
- 一般型:カタログにない設備を自社の現場に合わせてオーダーメイドで導入する型。補助上限750万〜1億円、補助率1/2〜2/3で、事業計画の審査があります。詳しくは一般型の解説記事へ。
金額の大きい投資を考えているなら一般型、定番の省力化機器で足りるならカタログ注文型、という選び方が基本です。
賃上げ要件の違いに注意
どちらの制度にも賃上げ要件がありますが、扱いが少し違います。ものづくり補助金は「給与支給総額」の年平均+3.5%が原則要件。一方省力化投資補助金の一般型は「1人当たり給与支給総額」の年平均+3.5%が基本要件で、計算対象となる従業員の範囲(全月在籍者で計算する等)に独自のルールがあります。カタログ注文型では賃上げは上限を引き上げたい場合の追加要件という位置づけです。
元銀行員として正直に申し上げると、賃上げ要件は「補助金をもらうための飾り」ではなく、実行が前提の約束です。未達なら返還を求められます。どちらの制度でも、賃上げ原資となる付加価値(売上・粗利)の増加と、賃上げ計画の数字がつながっているか——ここが審査でも実行段階でも問われます。融資審査と補助金審査は別物ですが、「計画の数字に根拠があるか」を問う目線は共通します。
公募のタイミングで選ぶ
申請のしやすさという点では、公募方式も判断材料になります。
ものづくり補助金は回次制で、公募回ごとに締切があります。2026年は第23次(締切2026年5月8日)が受付を終了しており、以降の公募スケジュールや、中小企業新事業進出補助金との統合・再編の方針も示されています。最新情報は公式サイトでご確認ください。
省力化投資補助金は、一般型が回次制(第7回公募は2026年7月1日〜7月31日)、カタログ注文型は2026年3月19日の改定で受付期間が延長され、2027年3月末頃までの随時受付が見込まれています(受付状況は変わるため公式サイトでご確認ください)。「今すぐ動きたい」場合は、随時受付のカタログ注文型が選びやすい場面もあります。
どちらを選ぶべきか|判断の流れ
迷ったときは、次の順で考えると整理しやすくなります。
- 投資の目的は? 新製品・新サービスの開発 → ものづくり補助金/人手不足の省力化 → 省力化投資補助金
- (省力化なら)設備はカタログにある? ある → カタログ注文型/自社専用の設計が必要 → 一般型
- 投資額と手続き負担のバランスは? 大型投資で計画も作り込める → 一般型・ものづくり/手早く進めたい → カタログ注文型
なお、同一の事業で複数の補助金を重複して受け取ることはできません。どの制度が自社の投資内容に最も合うかを、申請前に見極めることが大切です。判断に迷う場合は、決算書をもとに対象経費・補助率・賃上げ要件をシミュレーションすると、現実的な選択肢が見えてきます。
迷いやすい2つの典型ケースで考える
実際のご相談では、上記の判断フローだけでは決めきれない「どちらでも申請できそうに見える」ケースがよく出てきます。ここでは、想定例として2つの典型パターンを挙げます(いずれも特定の相談事例ではなく、判断軸を示すための一般化した想定例です)。
ケース1:検品・搬送を自動化したい製造業(従業員15名程度を想定)
例として、人手不足で検品工程の処理が追いつかず、カタログに登録済みの検品・搬送ロボットの導入で対応できそうな製造業を想定します。投資額は数百万円規模でカタログの価格帯に収まり、目的も「新製品の開発」ではなく「今の生産量を今の人数でこなす」省力化そのものです。この条件がそろうなら、判断フローの3項目(目的=省力化/設備=カタログにあり/投資額=カタログ品の範囲内)すべてが省力化投資補助金(カタログ注文型)を指しており、選択に迷う余地はあまりありません。
ケース2:新素材を使った新製品を作りたい製造業(従業員30名程度を想定)
一方で、新しい素材や工法を使った製品を開発したいが、その製造には既存設備の改造や専用治具の設計が必要、というケースを想定します。この場合、目的が「新製品の開発」である時点でものづくり補助金(2026年からは後述のとおり新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の革新的新製品・サービス枠に引き継がれています)が主軸候補になり、かつ設備がカタログにない専用品である以上、省力化投資補助金を使うなら一般型を検討することになります。投資額も1,000万円を超える規模になりやすく、事業計画書の作り込みが前提になる点も一般型・ものづくり補助金に共通します。
この2つのケースの違いは、結局のところ「今の仕事を今の人数でこなしたいのか(省力化)」「今までにない製品・サービスを生み出したいのか(開発)」という出発点の違いに戻ります。投資の目的を最初に言語化してから、設備がカタログにあるか、投資額がどの規模かを確認する順番で整理すると、判断がぶれにくくなります。
2026年にこれから申請するなら——3制度の選び方
ここまで比較のために「ものづくり補助金」という名前で説明してきましたが、単独の制度としてのものづくり補助金は、前述のとおり第23次公募(締切2026年5月8日)で新規の受付を終えています。2026年にこれから申請する場合、その役割は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の革新的新製品・サービス枠に引き継がれました。つまり現在の選択肢は、①省力化投資補助金(カタログ注文型)、②省力化投資補助金(一般型)、③新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、の3つに整理し直す必要があります。ここからは、この3制度の現在の姿で選び方を示します。
3ステップの判断フロー
投資の内容を、次の順で当てはめていくと絞り込めます。
- (1) 省力化が目的で、カタログ掲載の汎用品で足りるか。 検品・搬送・受付など定番の省力化機器で対応できるなら、省力化投資補助金(カタログ注文型)です。補助上限は200万〜1,000万円(賃上げで300万〜1,500万円)、補助率1/2以下で、審査は軽く随時受付です。詳しくはカタログ注文型の解説記事へ。
- (2) 省力化が目的だが、自社専用のオーダーメイド設備が要るか。 カタログにない設備を現場に合わせて設計・導入するなら、省力化投資補助金(一般型)です。補助上限は最大1億円と大きい一方、3〜5年の事業計画書で審査を受けます。詳しくは一般型の解説記事へ。
- (3) 省力化ではなく、新製品開発・新市場進出を伴うか。 「今までにない製品・サービスを生み出す」「新しい顧客層の市場に出る」なら、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金です。革新的新製品・サービス枠は750万〜2,500万円(下限100万円)、新市場への進出(新事業進出枠)は従業員規模に応じて最大7,000万円(下限750万円)です。詳しくは新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の解説記事へ。
3制度の比較表
| 比較項目 | 省力化・カタログ注文型 | 省力化・一般型 | 新事業進出・ものづくり商業サービス |
|---|---|---|---|
| 対象投資 | カタログ掲載の汎用省力化機器 | オーダーメイドの省力化・自動化設備 | 革新的な新製品・サービス開発/新市場進出 |
| 補助上限 | 200万〜1,000万円(賃上げで300万〜1,500万円) | 750万〜最大1億円 | 革新枠750万〜2,500万円/新事業進出枠2,500万〜7,000万円 |
| 補助率 | 1/2以下 | 1/2〜2/3 | 1/2〜2/3 |
| 審査の重さ | 軽い(製品を選んで申請) | 重い(3〜5年の事業計画を審査) | 重い(書面7観点+口頭審査) |
| 受付時期 | 随時受付(2027年3月末頃までの見込み) | 回次制(第7回=2026年7月1日〜7月31日17:00) | 回次制(第1回=2026年8月31日〜9月30日18:00) |
※金額・日程は2026年7月時点・各制度の直近公募のものです。公募回により変わるため、申請時は必ず各制度の最新の公募要領でご確認ください。
迷いやすい境界ケース2つ
実務では、この3ステップだけでは割り切れない「またがった」ご相談も出てきます。想定例で2つ挙げます(特定の相談事例ではなく、判断軸を示すための一般化した想定例です)。
境界ケース1:省力化もしたいが、新製品も作りたい。 たとえば、検品工程を自動化して人手を浮かせつつ、その空いた工程で新素材を使った新製品も量産したい、という製造業を想定します。ここで効いてくるのが、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は「1公募につき1申請」で、複数制度への同時申請や同一経費の重複交付ができないという制約です。判断の軸は「投資の主目的はどちらか」。中心が現場の省力化なら省力化投資補助金、中心が新製品という新しい価値の創出なら革新的新製品・サービス枠に寄せて、1本の計画として設計します。省力化設備の費用も、新製品を生み出すための生産プロセス投資として革新枠の計画に位置づけられる場合があり、どちらの制度で組むと対象経費を無理なく積めるかで決めるのが現実的です。
境界ケース2:新市場に出たいが、投資額が下限に届かない。 新しい顧客層向けの新事業を考えているが、必要な設備投資が700万円で、新事業進出枠の補助下限750万円にわずかに届かない、というケースを想定します。この場合、選択肢は2つです。ひとつは、その取組を「新市場進出」ではなく「革新的な新製品・サービスの開発」として設計し直し、下限100万円の革新的新製品・サービス枠で申請する道。もうひとつは、関連設備まで投資計画を広げて下限を満たす道ですが、下限に合わせて投資を膨らませるのは本末転倒で、稼働率の上がらない過剰投資は結局いちばんの資金繰り悪化要因になります。多くの場合、無理に新事業進出枠へ寄せず、下限の低い革新枠で堅く組むほうが実務的です。
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自社の投資がどちらに当てはまるか、書面だけでは判断がつかないことも多いはずです。お問い合わせいただければ、投資の目的・金額・設備の内容を伺いながら、どちらの制度が合うかを一緒に整理します。
よくある質問
ものづくり補助金と省力化投資補助金は何が違いますか?
目的が違います。ものづくり補助金は革新的な製品・サービスの開発や生産プロセス改善のための設備投資、省力化投資補助金は人手不足の解消(省力化・省人化)のための設備投資を支援します。新しい価値を生むならものづくり、業務を自動化するなら省力化が基本です。
両方に同時に申請できますか?
申請自体は制度ごとに可能ですが、同一の事業・同一の経費で複数の補助金から重複して交付を受けることはできません。どの制度が自社の投資内容に最も合うかを見極めて選ぶ必要があります。
金額が大きいのはどちらですか?
上限額だけ見れば、省力化投資補助金の一般型が最大1億円と大きく、ものづくり補助金は750万〜2,500万円程度です。ただし金額の大小ではなく、投資の目的に合う制度を選ぶことが採択の前提になります。
すぐに申請できるのはどちらですか?
省力化投資補助金のカタログ注文型は随時受付のため、製品が決まれば比較的すぐ動けます。ものづくり補助金や省力化投資補助金の一般型は回次制で、公募の締切に合わせて準備する必要があります。