公開日:2026年8月8日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
経営革新計画とは、中小企業等経営強化法に基づき、新事業活動によって「経営の相当程度の向上」を図る3〜5年の計画を作成し、都道府県知事の承認を受ける制度です。承認そのものに補助金は付きません。
最後の一文が、この記事で一番お伝えしたいことです。
「経営革新計画を取ると、融資が有利になって補助金の加点にもなるらしい」。相談の場でよくうかがう話です。半分は当たっています。ただ、残りの半分には、実際に手を動かしてみないと見えない前提が隠れています。国のガイドブックにも、山梨県の公式サイトにも、同じ趣旨の一文がはっきり書かれています。計画の承認は支援策を保証するものではなく、承認を受けた後、それぞれの支援機関で別途の審査が必要になる、と。
私は以前、金融機関で法人融資の審査を担当していました。県の承認書を持って来られた事業者の方も、実際にお会いしています。そのときに稟議で見ていたものと、承認書が証明していることは、正直に言えば別物でした。ここを最初に整理しておかないと、「取ったのに何も変わらなかった」という感想で終わってしまいます。
この記事では、制度の要件を一次資料で押さえたうえで、承認で本当に手に入るもの・手に入らないものを仕分けし、山梨県で申請する場合の実務スケジュールまで通しでご説明します。
経営革新計画とは何か?──2つの条件を満たす計画に、県知事が承認を出す制度
根拠法は中小企業等経営強化法です。同法は「経営革新」を、事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ることと定義しています(第2条第9項)。承認を受けるには、この「新事業活動」と「経営の相当程度の向上」の両方を満たす必要があります。
「新事業活動」とは何を指すのか
山梨県の説明では、新事業活動は次の6つです(国のガイドブックは5類型に整理し、⑤に「その他の新たな事業活動」を含めています。中身は同じです)。
- 新商品の開発又は生産
- 新役務の開発又は提供
- 商品の新たな生産又は販売の方式の導入
- 役務の新たな提供の方式の導入
- 技術に関する研究開発及びその成果の利用
- その他の新たな事業活動
大事なのは、世界初である必要はまったくないという点です。個々の事業者にとって新しい取り組みであれば、すでに他社が採用している技術・方式を使う場合でも、原則として承認の対象になります。
ただし例外があります。業種ごと(地域性の高いものは同一地域の同業他社)に導入状況が判断され、すでに相当程度普及している技術・方式の導入は承認対象外とされています。「隣の同業者もみんなやっていること」は通らない、という線引きです。この判断が地域単位で入るところが、都道府県承認という制度の性格をよく表しています。
「経営の相当程度の向上」の数値要件
2つの指標を、計画期間(3〜5年)の終了時点で伸ばすことが求められます。
| 計画期間 | 付加価値額 又は 一人当たりの付加価値額 | 給与支給総額 |
|---|---|---|
| 3年計画 | 9%以上向上(年平均3%以上) | 4.5%以上向上(年平均1.5%以上) |
| 4年計画 | 12%以上向上(年平均3%以上) | 6.0%以上向上(年平均1.5%以上) |
| 5年計画 | 15%以上向上(年平均3%以上) | 7.5%以上向上(年平均1.5%以上) |
計算式もはっきり決まっています。
- 付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
- 一人当たりの付加価値額=付加価値額÷従業員数
- 給与支給総額=給料+賃金+賞与+各種手当(山梨県の記載。国のガイドブックはこれに役員報酬を含めて図示しています。退職手当などの給与所得とされない手当と福利厚生費は含みません)
- 伸び率(%)=(計画終了年度末値 − 申請直近期末値)÷ 申請直近期末値の絶対値 × 100
実務でつまずきやすいのは、給与支給総額のほうです。付加価値額は営業利益の改善で動かせますが、給与支給総額は人を増やすか賃金を上げるかしないと増えません。3年で4.5%というのは年1.5%ですから、決して無茶な数字ではないのですが、「計画を作ったら人件費も上げ続けることになる」という自覚がないまま出すと、承認後に苦しくなります。数字を置く前に、この点は社内で握っておいたほうがいいと思います。
承認されると何が得られるのか?──「別枠」と「審査に通る」は違う
承認を受けた事業者が利用できる支援措置は、国のガイドブックと山梨県の案内で次のように整理されています。
| 区分 | 内容 | 相談先(山梨県の場合) |
|---|---|---|
| 信用保証の特例 | 普通保証2億円(組合4億円)・無担保保証8,000万円の別枠設定、新事業開拓保証の限度額引き上げ | 山梨県信用保証協会 |
| 公庫の特別利率 | 国民生活事業「新事業活動促進資金」貸付限度7,200万円(うち運転資金4,800万円)、貸付利率は基準利率▲0.65%。中小企業事業は限度14億4,000万円で同▲0.65%(新事業育成資金は▲0.9%) | 日本政策金融公庫 甲府支店 |
| 高度化融資 | 組合等が対象。経営革新計画に基づく高度化事業は無利子になる場合あり | 中小企業基盤整備機構 |
| 海外展開の資金調達 | スタンドバイ・クレジット、クロスボーダー・ローン等 | 公庫 甲府支店/日本貿易保険 |
| 投資・ファンド | 中小企業投資育成株式会社の特例、起業支援ファンド | 東京中小企業投資育成/中小機構 |
| 販路開拓 | 販路開拓コーディネーター事業 | 中小機構 関東本部 |
金利の話は具体的に見ておきましょう。仮に設備資金3,000万円を10年で借りるとして、▲0.65%が効いた場合。元金均等返済なら期中の平均残高はおおむね借入額の半分、1,500万円前後です。1,500万円×0.65%=年約9.75万円、10年でおよそ100万円。これは決して小さくありません。
ただし、ここからが本題です。
元銀行員として、正直にお伝えしたいこと
信用保証の「別枠」は、保証を受けられる枠が広がるという意味であって、保証協会の審査に通りやすくなるという意味ではありません。国のガイドブックにも「他の支援策による特別枠をすでに利用されている方は、利用可能な枠が制限される場合があります」「計画の承認は支援を保証するものではなく、計画の承認後に別途審査が必要となります」と注記されています。山梨県の案内にも同じ趣旨が書かれています。
私が融資の審査に携わっていた頃、稟議で最初に確認していたのは返済原資でした。この投資でいくら稼げて、そこからいくら返せるのか。県の承認書は「県が新規性と計画の妥当性を認めた」ことの証明であって、「返済できる」ことの証明ではありません。承認書があるから貸す、という判断にはならないのです。
むしろ実務で気をつけたいのは逆のほうです。県に出した経営革新計画の数字と、銀行に出した事業計画の数字が食い違っていると、そこを突かれます。同じ会社の同じ事業について、公的機関に出した計画と金融機関に出した計画で売上見込みが違う。これは、どちらの数字も信用できないという評価につながりかねません。計画を作るなら、出し先ごとに数字を作り分けないこと。当たり前のようでいて、意外とバラバラになっているケースがあります。
誤解のないように申し添えると、融資審査と補助金審査はそもそも別物です。融資は返済可能性を見るもので、補助金は政策的な意義と実現性を見るもの。基準も判断する主体も違います。ただ、計画の数字に根拠があるかを問う目だけは、どちらにも共通しています。経営革新計画を作る過程で数字の根拠を詰めておくと、その先の融資交渉でも補助金申請でも同じ資料が使える。私は、そこにこそ実質的な価値があると考えています。
「補助金の加点になる」は本当か?──公募要領を当たると書いていない
ここは特に注意が必要なので、実際に原文を確認しました。
小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>第20回公募の公募要領(第8版)にある加点項目は、次のとおりです。
- 重点政策加点:①赤字賃上げ加点 ②事業環境変化加点 ③東日本大震災加点 ④くるみん・えるぼし加点 ⑤健康経営優良法人加点
- 政策加点:①賃金引上げ加点 ②地方創生型加点 ③経営力向上計画加点 ④事業承継加点 ⑤過疎地域加点 ⑥一般事業主行動計画策定加点 ⑦後継者支援加点 ⑧小規模事業者卒業加点 ⑨事業継続力強化計画策定加点
この14項目の中に、経営革新計画はありません。並んでいるのは「経営力向上計画」と「事業継続力強化計画」です。名前が似ているので混同されやすいのですが、加点対象として明記されているのは別の制度のほうなのです。
加点の内容は補助金ごとに、しかも公募回ごとに変わります。ですから「経営革新計画は補助金の加点になる」という説明は、制度横断の一般則としては成り立ちません。狙っている補助金の、その回の公募要領を自分で開いて、加点項目の一覧を確認する。手間ですが、これが唯一確実な方法です。
加点そのものの重みは大きいので、取れるものは早めに取っておくのが実務だと思います。申請するかどうかを決めきる前でも構いません。私はご相談の場でも「申請するしないにかかわらず、取れるものは取っておきましょう」とお話ししています。ただ、その「取れるもの」が何なのかは、思い込みではなく要領で確かめてください。加点項目の詳しい整理は補助金の採択率を上げるためにやるべきことにもまとめています。
山梨県で申請するとどうなるか?──窓口・審査会・提出書類
経営革新計画は都道府県が窓口になるため、手続きの実際は県ごとに違います。山梨県の場合を具体的に見ていきます(以下は山梨県公式サイトの2026年8月8日時点の記載に基づきます)。
窓口と申請先の考え方
窓口は山梨県産業政策部スタートアップ・経営支援課(甲府市丸の内1-6-1 別館3階)です。(公財)やまなし産業支援機構などの中小企業支援機関でも相談を受け付けています。県内の事業者であれば、日ごろ付き合いのある商工会議所・商工会に先に相談してみるのも自然な流れです。
山梨県が窓口になるのは、単独申請なら本社所在地が県内の場合、共同申請なら代表企業の本社が県内の場合です。活動が複数の都道府県にまたがる場合は、経済産業省の地方局などが窓口になります。
提出書類
県が挙げている添付書類は次のとおりです。決算書まわりが厚いのが特徴です。
- 申請書1部(代表印を押印)
- 定款の写し(法人の場合)/登記簿謄本(法人の場合)
- 住民票記載事項証明書(個人の場合。マイナンバーの記載がないもの)
- 最近2期間の営業報告書又は事業報告書
- 最近2期間の確定申告書類の写し(税務署の受付印または電子申告完了がわかる資料)、貸借対照表、損益計算書、販売費及び一般管理費計算内訳書、製造原価報告書
- 申請者および事業に関する概要説明書
- 経営診断セルフチェックシート
- 新たな取り組みの内容に関する参考資料(新商品のカタログなど)
審査会でプレゼンテーションがある
ここが、他の認定制度と大きく違うところです。山梨県では、中小企業診断士・税理士・技術系の県職員などで構成する審査会が開かれ、申請者本人が経営革新計画について説明(プレゼンテーション)を行い、審査員からの質問に答えます。書類を出して終わりではありません。承認・不承認は、審査会の結果を参考に山梨県知事が決定します。
審査会はおおむね2か月に1回のペースです。2026年8月8日時点の県サイトでは、次回審査会は8月19日(水曜日)予定で、申請書の提出期限は7月29日(水曜日)必着とされていました。この回に間に合わなかった場合は次々回、10月中旬の予定となります。審査会終了後、約1週間で承認・不承認の通知が発送されます。
つまり、思い立ってから承認書が手元に来るまで、最短でも2〜3か月は見ておく必要があります。しかも書類の事前確認を県が勧めているので、実際にはさらに前倒しで動くことになります。補助金の加点や公募締切から逆算するなら、締切の3か月前には着手している計算です。この「先回り」ができるかどうかが、そのまま結果の差になります。
山梨県で年に何件承認されているか
中小企業庁が公表している都道府県別の承認件数(令和7年3月末時点)によると、山梨県の承認件数は令和6年度が21件、平成11年度からの累計で654件です。参考までに、隣の長野県は令和6年度61件、静岡県は378件でした。
年間21件という数字をどう見るか。山梨県内の中小企業数を考えれば、決して多くありません。手間がかかる制度であることの裏返しでもありますが、同時に、「持っている会社が少ない」ことがそのまま差別化になるとも言えます。