公開日:2026年7月4日 更新日:2026年7月12日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)

「最低賃金がまた上がる。どうせ賃上げするなら、設備投資の費用も少しは戻ってこないだろうか」——山梨県内の経営者から、最近こうしたご相談が増えています。そこで候補に挙がるのが、賃上げと設備投資をセットで行うと使える業務改善助成金です。

結論から言えば、業務改善助成金は「社内で最も低い時給(事業場内最低賃金)を一定額以上引き上げ、あわせて生産性が上がる設備を導入した中小企業・小規模事業者に、その設備投資費用の一部を助成する厚生労働省の制度」です。令和8年度(2026年度)は50円・70円・90円の3コースに整理され、助成率は最大4/5、事業主あたりの年間上限は最大600万円。交付申請の受付開始は2026年9月1日です。

はじめに一つだけお断りしておきます。業務改善助成金は「補助金」ではなく「助成金」で、しかもお金は後払い(先に全額立て替える)です。ここを取り違えると資金繰りで苦しくなります。私は元銀行員として長く法人融資の審査に携わってきました。その目線も交えて、制度の中身と、山梨県で申請するときの注意点を実務目線で整理します。


業務改善助成金とは?補助金との違いを一言で

業務改善助成金は、事業場内最低賃金(その事業場で最も低い時間当たり賃金)を一定額以上引き上げ、生産性向上に資する設備投資などを行った中小企業・小規模事業者に対して、その設備投資にかかった費用の一部を助成する制度です。最低賃金の引き上げが続くなかで、賃上げの原資を「生産性向上」で生み出してもらうことを狙った、厚生労働省の支援策です。

よく混同されるのが「補助金」との違いです。ざっくり言えば、補助金(経済産業省系)は事業計画の中身を審査で競い、採択されないともらえないのに対し、助成金(厚生労働省系)は決められた要件を満たせば原則受給できるという性格の違いがあります。業務改善助成金は後者で、賃上げと設備投資という「要件」を満たすことが基本になります。補助金と助成金の考え方の違いは、補助金と助成金の違いを解説した記事で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。

ただし「要件を満たせば原則もらえる」とはいえ、予算の範囲内で交付する制度なので、申請が多ければ期間の途中で募集が締め切られることがあります。この点は補助金と同じ緊張感を持っておいたほうがよい、というのが実務の感覚です。

対象になるのはどんな事業者・労働者?個人事業主でも使える?

対象になるのは、中小企業・小規模事業者で、労働者(従業員)を雇用している事業場です。中小企業に当たるかどうかは、業種ごとの「資本金・出資総額」または「常時使用する労働者数」のいずれかで判定します。法人だけでなく個人事業主も対象で、従業員を1人でも雇っていれば申請の土俵に乗ります。

ここで誤解しやすいのが、「6か月経過」「雇用保険の被保険者」といった条件です。令和8年度の厚生労働省交付要領では、賃上げの基準となる事業場内最低賃金は、雇入れ後6か月を経過し、申請書の提出日に雇用保険の被保険者である労働者のうち、最も時給が低い人の額で判断するとされています。つまりこの条件は、賃上げの基準となるこの1人(=事業場内最低賃金にあたる人)に係るもので、従業員全員がこの条件を満たしている必要はありません。少なくとも1人、条件を満たす人がいることが出発点になります。

そのうえで、基準額より時給が低い人(入ってまだ6か月未満の人を含む)がいる場合は、その人たちの時給も、引き上げ後の事業場内最低賃金まで引き上げる必要があります。また、助成の上限額を決める「引き上げた人数」についても、令和8年度は、この人数に数える労働者が雇用保険の被保険者であることが前提とされています。具体的には、基準となる人に加えて、基準額の引き上げによって時給を追い抜かれる人も、同じコースの引き上げ額以上を引き上げれば算入できます。なお、ここまでの「雇用保険被保険者」という条件は、令和7年度の交付要領には明記されておらず、令和8年度で明確化されたものです。以前の年度の感覚のまま条件や人数を数えると要件や上限額の見込みがずれる可能性があるため、必ず令和8年度のルールで確認してください。ここは上限額の計算に直結するので、自社の賃金台帳をもとに早めに確認しておきたいポイントです。

いくらもらえる?助成率と上限額(コース別の早見表)

助成される金額は、「設備投資などにかかった費用 × 助成率」「コースと引き上げ人数で決まる上限額」の、いずれか低いほうです。順に見ていきます。

助成率は「今の事業場内最低賃金」で決まる

助成率は、引き上げの事業場内最低賃金の水準で2段階に分かれます。

引き上げ前の事業場内最低賃金助成率
1,050円未満4/5(80%)
1,050円以上3/4(75%)

時給が低い事業場ほど助成率が高くなる仕組みです。ここで山梨県の経営者に注意していただきたいのが、山梨県の最低賃金はすでに1,052円(2025年12月1日発効)まで上がっているという点です。つまり山梨県内で普通に最低賃金を守って賃金を払っていれば、多くの事業場は「1,050円以上=助成率3/4」に該当します。「4/5になるはず」と思い込んで資金計画を立てると、あとで差が出ます。

上限額はコースと引き上げ人数で決まる

令和8年度のコースは、事業場内最低賃金を「いくら引き上げるか」で3つに分かれます。50円コース(50円以上)、70円コース(70円以上)、90円コース(90円以上)です。引き上げ額が大きいコースほど、上限額も大きくなります。

コース引き上げ人数上限額(30人以上)上限額(30人未満)
50円コース1人30万円40万円
2〜3人40万円70万円
4〜5人70万円70万円
6〜7人90万円90万円
8人以上110万円110万円
70円コース1人40万円50万円
2〜3人50万円100万円
4〜5人130万円130万円
6〜7人180万円180万円
8人以上230万円230万円
90円コース1人90万円100万円
2〜3人150万円240万円
4〜5人270万円270万円
6〜7人360万円360万円
8人以上450万円450万円

「最大600万円」という数字を目にした方も多いと思います。これは90円コースで10人以上を引き上げ、かつ後述の「特例事業者」に該当する場合の上限です。10人以上の区分(50円130万円・70円300万円・90円600万円)は特例事業者向けであり、すべての事業者がいきなり600万円もらえるわけではありません。小規模な事業場では、現実には数十万円〜数百万円のレンジになることがほとんどです。数字の大きさに引っ張られず、自社のコース・人数で上限を確認するのが実務の第一歩です。

「特例事業者」なら上限と対象経費が広がる

次のいずれかに当てはまる事業者は「特例事業者」として、上限額の拡大や対象経費の拡大が受けられます。

  • 賃金要件:事業場内最低賃金が1,050円未満であること
  • 物価高騰等要件:申請前の直近6か月間の平均利益率が、前年同期に比べて3%ポイント以上低下していること

物価高騰等要件に当てはまる特例事業者は、通常は対象外のパソコン・タブレット・スマートフォン等の端末や周辺機器も、新規購入に限って対象経費に加えられます。原材料高やエネルギー高で利益が圧迫されている事業者向けの救済枠、というイメージです。

令和8年度(2026年度)は何が変わった?

ここが今回いちばんお伝えしたいところです。業務改善助成金は年度ごとにコース区分やスケジュールが変わる制度で、令和8年度も見直しが入りました。ネット上には令和7年度以前の内容のまま書かれた解説記事も多く残っているので、古い年度向けの数字をそのまま自社に当てはめないよう注意してください。令和8年度の主なポイントは次のとおりです。

  • 交付申請の受付開始は2026年9月1日(厚生労働省が2026年4月22日に令和8年度の交付要綱等を公開)。通年でいつでも出せるわけではないので、募集時期を逃さないことが大切です。
  • コースは50円・70円・90円の3コースに整理されています。
  • 賃上げは交付決定を受けた「後」に実施するのが原則です。先に賃上げしてしまってから申請、という順番は認められません。

申請の締め切りは、その年の最低賃金の発効日などとの関係で設定されます。令和8年度の正確な申請期限や様式は、必ず厚生労働省の交付要領・最新のお知らせでご確認ください。予算の範囲内で早期に締め切られることもあるため、「まだ先」と構えず、8月のうちに設備の選定と見積取得まで進めておくのが安全です。

対象になる経費・ならない経費は?

対象になるのは、生産性の向上や労働能率の増進に資する設備投資などです。具体的には、製造・調理・清掃などの機械設備、POSレジや在庫・予約管理システム、業務用ソフトウェア、コンサルティングや研修などが典型です。飲食業の配膳ロボット、宿泊業の予約管理システム、介護・福祉のリフトなどが実際によく使われています。ソフトウェアやITツールの導入を検討している場合は、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)との組み合わせも選択肢になります。あわせてIT導入補助金2026の解説記事もご覧ください。

一方で、次のようなものは対象になりません。ここを勘違いして先に発注してしまう例が後を絶ちません。

  • 単なる経費削減だけを目的とした購入
  • 娯楽性・遊興性が高く、生産性向上に直接つながると認められない設備
  • 単なる設備の交換・更新(生産性が上がると認められないもの)
  • 通常の自動車——リフト付き特殊車両などの「特殊用途自動車」以外の自動車は対象外です
  • パソコン・タブレット等(前述の物価高騰等要件を満たす特例事業者を除く)

「業務改善助成金で車が買える」といった解説を見かけますが、令和8年度の申請マニュアルでは特殊用途自動車以外の自動車は助成対象外と明記されています。ハイエースや軽トラを普通に買う、というイメージで進めると外れますので、車両を検討する場合は特に慎重に確認してください。

申請の流れと、いちばん多い失敗

大まかな流れは、①交付申請(賃金引き上げ計画+設備の見積等を提出)→ ②労働局の審査・交付決定 → ③設備の導入と賃上げの実施 → ④実績報告 → ⑤助成金の入金です。設備の見積は、契約予定額が10万円未満の場合を除き、原則2者以上から取る必要があります。また、申請には直近6か月分の賃金台帳が求められます。

そのうえで、私が支援の現場でいちばん多く見る失敗を正直にお伝えします。それは交付決定を受ける前に、設備を発注・購入してしまうことです。業務改善助成金に限らず、この手の制度は「交付決定日より前の発注書・請求書・支払いは対象外」というのが鉄則です。「もう工事を始めたい」「知り合いに大丈夫と言われた」という相談を受けるたびに、私は「実績報告の書類に日付が必ず乗るので、そこでアウトになります」とはっきりお伝えしています。書類上で必ず分かることなので、ここは絶対にフライングしないでください。

もう一つ、賃上げ要件のある制度に共通する準備として、賃金台帳の整備を申請書づくりより先に済ませておくことをおすすめします。月別・個人別に基本給や手当が分解され、社会保険・雇用保険の記録と整合していること。ここが崩れていると、申請の途中で止まってしまいます。

【元銀行員の視点】助成金は"後払い"——資金繰りを先に設計する

制度の要件以上に、私が経営者にいちばん強調したいのがここです。業務改善助成金は、設備代を先に全額支払い、あとから助成金が入ってくる「後払い」の制度だということです。申請から入金までには、審査・導入・実績報告を挟んで数か月かかります。つまり、その間の設備代は自社で立て替えなければなりません。

「今すぐお金が必要」という状態のときに、助成金を当てにして設備投資を決めるのは、構造的に危険です。融資の審査と助成金は、そもそも役割が違います。助成金は「賃上げと生産性向上を後押しする」もの、融資は「必要な資金を先に用意する」ものです。私が現場で見てきたのは、この立て替え期間の資金繰りを軽く見て、入金前に手元資金がショートしかける会社です。

ですから実務では、設備投資の総額を先に固め、入金までの数か月をどう乗り切るか(自己資金で足りるか、つなぎの運転資金融資が必要か)を先に設計することをおすすめします。日本政策金融公庫などのつなぎ資金の考え方は、日本政策金融公庫の融資ガイドもあわせて参考にしてください。助成金と融資は、対立させるのではなく組み合わせて使うのが賢い進め方です。

山梨県で業務改善助成金を申請するには?

業務改善助成金は国(厚生労働省)の制度なので、内容は全国共通です。申請の窓口は、各都道府県の労働局になります。山梨県の事業者は山梨労働局の雇用環境・均等室が窓口で、紙での申請・個別相談のほか、Jグランツによる電子申請(GビズIDプライムが必要)も選べます。制度全般の質問は、業務改善助成金コールセンター(0120-366-4440/平日9:00〜17:00)でも受け付けています。

山梨県ならではの注意点は、先に触れた最低賃金です。山梨県の最低賃金は2025年12月1日から1,052円となり、前年の988円から64円引き上げられました。この上昇によって、事業場内最低賃金が低かった事業者ほど、助成率や特例事業者の判定に影響が出ます。

正直に言えば、業務改善助成金には一つの逆説があります。これまでコツコツ賃金を上げてきた「良い会社」ほど、事業場内最低賃金がすでに高く、助成率や特例の恩恵を受けにくいのです。真面目にやってきた経営者ほど「うちは当てはまらないのか」と感じてしまう。ここは制度の限界として受け止めつつ、業務改善助成金が合わない場合は、山梨県内の他の補助金・助成金に目を向けるのが現実的です。山梨県の中小企業が使える補助金・助成金一覧で、自社に合う制度を横断で確認してみてください。

池田計画合同会社では、自社にどの制度が合うかの診断から、賃金台帳の整備、申請書類の作成、資金繰りを含めた設計までワンストップでご支援しています。AI補助金診断・補助金支援サービスもあわせてご活用ください。

「うちの事業場内最低賃金だと、どのコース・上限額になるのか」を賃金台帳を見ながら確認したい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。コースの見極めから交付申請、資金繰りの設計まで伴走します。


よくある質問

業務改善助成金は個人事業主でも申請できますか?

はい。従業員を雇用している中小企業・小規模事業者であれば、法人・個人事業主を問わず対象です。令和8年度では、賃上げの基準となる「事業場内最低賃金」は、雇入れ後6か月を経過し、申請書提出日に雇用保険の被保険者である労働者のうち、最も時給が低い人の額で見ます。また、助成上限額を決める「引き上げ人数」に数える労働者も、雇用保険の被保険者であることが前提です。令和7年度の交付要領ではこの雇用保険被保険者の文言は明記されていなかったため、過去年度の情報で判断しないよう注意してください。この条件は基準となる1人に係るもので、従業員全員が満たしている必要はありません。なお個人事業主本人は労働者に当たらないため、引き上げ人数には数えられません。

業務改善助成金は最大600万円もらえるのですか?

上限額はコース・引き上げ人数・事業場規模で変わります。最大の600万円は「90円コースで10人以上を引き上げ、かつ特例事業者に該当する場合」の上限で、すべての事業者が対象になる金額ではありません。実際の支給額は「設備投資費用×助成率(4/5または3/4)」と上限額の低いほうで、小規模な事業場では数十万円〜数百万円になることが多いです。

令和8年度(2026年度)はいつから申請できますか?

令和8年度の交付申請の受付開始は2026年9月1日です。通年募集ではなく、予算の範囲内で期間の途中に締め切られることもあります。正確な申請期限や様式は、その年の最低賃金の発効日との関係で決まるため、厚生労働省の交付要領・最新のお知らせで必ずご確認ください。設備の選定と見積取得は、受付開始前の8月中に進めておくのが安全です。

業務改善助成金でパソコンや自動車は買えますか?

通常の自動車は対象外で、リフト付き特殊車両などの「特殊用途自動車」以外は助成対象になりません。パソコン・タブレット・スマートフォン等も原則は対象外ですが、直近6か月の平均利益率が前年同期比で3%ポイント以上低下した「物価高騰等要件」を満たす特例事業者に限り、新規購入分が対象になります。

就業規則がない場合でも申請できますか?

賃上げの際は、引き上げ後の事業場内最低賃金を就業規則等に定める必要があります。就業規則がない事業場では、賃金規定などの整備が前提になります。申請の前に、賃金台帳とあわせて社内ルールの整備状況も確認しておきましょう。

IT導入補助金など他の補助金・助成金と併用できますか?

同一の経費や同一の賃上げを対象に、国や地方公共団体から重複して助成・補助を受けることはできません。ただし、対象とする経費を分けるなど設計を工夫すれば、別の制度とあわせて活用できる余地はあります。どの制度をどう組み合わせるかは、資金繰りも含めて事前に設計することをおすすめします。