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事業承継税制とは|特例措置と一般措置の違い・期限と使う前の注意点【2026年】

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池田計画合同会社

公開日:2026年8月10日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)

「株を息子に渡すと、いくら税金がかかるのか」。事業承継のご相談で、社長さんが最初に口にされるのはたいていこの質問です。そして自社株の評価額を試算してお見せすると、たいてい場が静かになります。何十年もかけて積み上げてきた利益が、そのまま株価に化けているからです。その税金を先送りできる制度が事業承継税制です。

結論から言えば、事業承継税制とは、後継者が非上場株式などを贈与・相続で取得したときに、その贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡などによって最終的に免除する制度です。手厚い特例措置には期限があり、その期限が2026年(令和8年度)の税制改正で動きました。ただし、動いたのは「計画を出す期限」だけで、「株を渡す期限」は据え置かれています(本記事は2026年8月時点の国税庁・中小企業庁の公表資料に基づきます。適用の可否と税額の判断は必ず税理士にご確認ください)。

私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わったあと、中小企業診断士として独立し、事業承継のご相談にも関わってきました。その立場から先にお伝えしたいことがあります。この制度は「税金が消える制度」ではなく、「払わずに預かってもらう制度」です。預かってもらっている間はずっと条件が付いていて、条件を外すと利子を付けて返すことになります。制度の中身と一緒に、その現金の話まで書きます。


事業承継税制とは何か?

事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、経営承継円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合に、その株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により納付が免除される制度です(国税庁)。会社の株式を対象とする「法人版」と、青色申告の個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版」があり、この記事は法人版を中心に扱います。

ここで大事なのは、税務署だけで完結しない点です。適用を受けるには、まず会社の主たる事務所がある都道府県知事の「認定」を受け、そのうえで税務署に申告し、猶予される税額と利子税に見合う担保を提供します。窓口が二つあり、期限もそれぞれ別に走ります。

項目内容
対象非上場会社の株式等(議決権に制限のないものに限る。医療法人の出資は含まれません)
猶予される税金その株式等に対応する贈与税・相続税
認定する人会社の主たる事務所が所在する都道府県の知事
根拠法経営承継円滑化法(認定)+租税特別措置法(納税猶予)
免除される場面後継者の死亡、先代経営者の死亡、次の後継者への免除対象贈与 など
制度の種類特例措置(10年間の期間限定)と一般措置(期限なし)

猶予が最終的に免除にたどり着く典型は、2代目が3代目へ株式を贈与し、3代目がまたこの制度の適用を受けるパターンです。つまり、この制度は1回の承継で完結せず、次の承継まで含めた設計を前提にしています。

特例措置と一般措置は、どこが違うのか?

同じ「事業承継税制」でも、中身は別物と考えたほうが実務に近いです。国税庁のパンフレット「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」(令和8年7月)の比較表を、そのまま整理します。

項目特例措置一般措置
事前の計画策定等特例承継計画の提出(平成30年4月1日〜令和9年9月30日)不要
適用期限平成30年1月1日〜令和9年12月31日の贈与・相続等なし
対象株数全株式総株式数の最大3分の2まで
納税猶予割合100%贈与100%/相続80%
承継パターン複数の株主から最大3人の後継者複数の株主から1人の後継者
雇用確保要件弾力化(8割未達でも理由報告で継続)承継後5年間平均8割の雇用維持が必要
事業継続が困難な事由による免除ありなし

意外に見落とされるのが後継者の役員要件です。特例措置は「贈与の直前において会社の役員であること」で足りますが、一般措置は「贈与の日まで引き続き3年以上会社の役員であること」が要件になります。後継者が最近戻ってきたばかりの会社にとって、この3年は小さくない差です。息子さんが去年入社したところで先代が倒れた、という相談は珍しくありません。

なお同じ会社の株式について、特例措置と一般措置のどちらかしか選べません。両方を組み合わせて使うことはできない設計になっています。

期限はいつまでか?「計画」と「実行」の2つがある

ここが2026年の最大の変更点です。財務省の「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日)は、非上場株式等に係る納税猶予の特例制度について「特例承継計画の提出期限を1年6月延長する」と記載しています。これを受けて、中小企業庁のページ上の提出期限は令和9年(2027年)9月30日になりました。個人版の個人事業承継計画も2年6月延長され、令和10年9月30日までとなっています。

気をつけていただきたいのは、延びたのが計画の提出期限だけという点です。特例措置の対象になる贈与・相続そのものの期限は、令和9年12月31日のまま動いていません。つまり計画の提出を期限いっぱいまで引っ張ると、株式を実際に渡すまでに残された時間は3か月しかありません。株主が分散していれば集約に半年、株価の試算と役員交代の段取りにさらに数か月かかることを考えると、この3か月は実質的にほとんど余白がない期間です。

贈与で使う場合の手順と期限を、逆算の順に並べます。

順番やること期限
1特例承継計画を作り、認定経営革新等支援機関の所見をもらって都道府県に提出・確認を受ける令和9年9月30日まで(贈与後でも、認定申請時までなら提出可能)
2代表権を後継者に移し、株式を贈与する令和9年12月31日まで
3都道府県に円滑化法の認定を申請する贈与を受けた年の翌年1月15日まで
4贈与税を申告し、担保を提供する翌年2月1日〜3月15日
5都道府県に年次報告書、税務署に継続届出書を出す申告期限の翌日から5年間、毎年1回

相続で使う場合は時計の進み方が変わります。後継者は相続開始の日の翌日から5か月を経過する日に代表権を持っている必要があり、都道府県への認定申請は相続開始後8か月以内、相続税の申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。亡くなってから慌てて調べ始めると、この5か月と8か月が効いてきます。

私が承継のご相談でいつも申し上げるのは、「時期を先に決めてください」ということです。代表者がお元気なうちに会長へ移り、名義だけ先に整えておく。そう決めた瞬間に、株の集約も遺言も土地の名義も、逆算でやることが並びます。時期が決まらないままだと、この制度の期限だけが先に来ます。

猶予されるだけで、税金が消えるわけではない

制度の名前が「納税猶予及び免除」なので、免除のほうに目が行きがちです。ただ、猶予されている税額は会社の決算書にも後継者の預金通帳にも出てきません。私が銀行にいたころの言い方をすれば、これは帳簿に載らない将来の支払予定です。条件を外した瞬間に、現金で必要になります。

国税庁の資料では、猶予されている税額を納付することになる場面(確定事由)が整理されています。主なものを、5年間の報告期間の内と外で分けます。

起きたこと報告期間(原則5年)の中報告期間の経過後
適用を受けた株式の一部を譲渡した全額+利子税を納付譲渡した部分に対応する分を納付
後継者が会社の代表権を失った全額+利子税を納付(やむを得ない理由がある場合を除く)猶予は継続
会社が資産管理会社に該当した全額+利子税を納付全額+利子税を納付
雇用の5年平均が贈与時の8割を下回った特例措置は理由報告で猶予継続/一般措置は全額納付猶予は継続
継続届出書を出さなかった全額+利子税を納付

納付の期限は、確定事由に該当した日から2か月を経過する日までです。利子税は申告期限の翌日から年3.6%で計算されます(各年の利子税特例基準割合が7.3%に満たない年は軽減され、報告期間の経過後に納付するときは、その期間分の割合は年0%に軽減されます)。

気をつけたいのは、猶予税額が数千万円規模になる会社も普通にあることです。そこに2か月という納付期限がかかります。私は融資の審査をしていたので、この手の「予定外の一括支出」が中小企業の資金繰りに何をするかは何度も見てきました。適用を受けるなら、猶予されている税額を資金繰り表の欄外にでも書き添えて、毎年目に入るようにしておくことをおすすめします。担保についても同じで、この制度の対象株式の全部を担保として提供すれば担保提供があったものとみなされる扱いがあるものの、自社株を差し出している事実は残ります。

そして、報告の事務が5年で終わらない点も見落とされがちです。税務署への継続届出書は報告期間中は毎年、期間の経過後も3年ごとに提出が続きます。代表者が代わり、担当の税理士が代わっても、出し忘れれば全額納付です。届出の管理表を誰が持つのかを、適用を決める段階で決めておいてください。

どんな会社が向いていて、どんな会社は別の方法を考えるのか?

向いている会社の条件は、はっきりしています。将来の免除まで見通せるかどうかです。免除にたどり着くのは、後継者が亡くなるか、次の後継者へ株式を渡してその人がまた制度を使う場合ですから、親族内で3代目まで想像できる会社ほど相性がよくなります。加えて、自社株の評価額が高く、後継者に納税資金がない会社。持株会社に株を買い取らせる方法だと、会社の利益で買取資金を返していくため会社の体力が削られますが、この制度なら現金が社外に出ません。

逆に、別の方法から検討したほうがいい会社もあります。

  • 猶予される税額がもともと小さい会社。株価が低ければ、暦年贈与などで少しずつ渡すほうが、5年間の報告と3年ごとの届出という事務負担に見合います。
  • M&Aで売却する可能性が現実にある会社。株式を譲渡すれば猶予は打ち切られます。ただし、過去3年のうち2年以上赤字、2年以上売上減、有利子負債が売上の6か月分以上といった一定の事由に当たる場合は、売却価格や解散時の評価額をもとに税額を再計算して差額が免除される仕組みが特例措置にはあります。
  • 後継者以外の相続人との調整がついていない会社。財産に占める自社株の割合が高いと、後継者に株を集めた結果、他の相続人の遺留分を侵害しかねません。
  • そして、株主が分散している会社。これは向き不向き以前の問題です。

最後の点だけ補足させてください。以前ご支援した同族の中小製造業では、亡くなった株主の相続人まで含めて株が細かく散っていました。現場は受注も人手も設備も課題だらけでしたが、私が最初にお願いしたのは、誰が何株持っているかを相続人まで遡って書き出すことと、集約の期限を「今期中」と決めることでした。株が固まらないと、承継のスキーム自体が動きません。純資産が薄い時期はむしろ集約の好機でもあります。この制度を検討するより先に、株主名簿を実態に合わせるほうが優先度は高くなります(低額での買取が贈与とみなされないかは、必ず税理士に事前確認してください)。

数字の感覚も持っておくと判断しやすくなります。たとえば自社株の評価が3億円の会社で、後継者への贈与にかかる税額が1億円を超えるなら、猶予の価値は事務負担を大きく上回ります。一方、税額が数百万円で収まるなら、毎年の報告を20年続ける手間と天秤にかけたとき、答えが変わることもあります。

特例に間に合わなかったら、どうなるのか?

令和9年12月31日を過ぎても、事業承継税制そのものがなくなるわけではありません。国税庁の比較表のとおり、一般措置には適用期限がありません。特例承継計画も不要です。

ただ、条件は目に見えて厳しくなります。猶予の対象は総株式数の最大3分の2まで、相続の場合の猶予割合は80%です。単純化して言えば、後継者が株式の全部を相続する場合に猶予されるのは、自社株にかかる相続税のおよそ半分(3分の2×80%=約53%)にとどまります。残りは現金で納めることになります。後継者は1人まで、雇用も承継後5年間の平均で8割を維持することが要件です。

それでも、間に合わなかった=打つ手なし、ではありません。一般措置に加えて、株価が下がった局面での暦年贈与、相続時精算課税の活用、役員退職金の支給による株価の引き下げなど、税理士と組み立てられる選択肢は残ります。特例措置は「使えれば有利な10年限定のルート」であって、承継そのものの必須条件ではないと考えてください。

申請の窓口はどこで、認定支援機関は何をするのか?

特例承継計画の提出先も、円滑化法の認定申請の窓口も、会社の主たる事務所が所在する都道府県です。山梨県の場合は、山梨県 産業政策部 スタートアップ・経営支援課が窓口として中小企業庁の一覧に掲載されています(2026年8月時点)。税務申告は所轄の税務署なので、県と税務署の両方に期限があると覚えてください。

特例承継計画には、会社の後継者や承継時までの経営見通しなどを記載し、その内容について認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けて所見を記載してもらう必要があります。税理士・公認会計士・商工会・商工会議所・金融機関などが認定を受けており、当社も認定経営革新等支援機関です。雇用の5年平均が8割を下回ったときの実績報告でも、認定支援機関の所見が必要になります。

役割分担で整理すると、税額の計算と申告は税理士、計画と認定の手続きは会社+認定支援機関、認定は都道府県、猶予の管理は税務署です。承継の設備投資や販路の作り直しに事業承継・M&A補助金を併用する会社もありますが、補助金と税制は目的も審査も別の制度なので、それぞれ独立して要件を確認してください。

制度の話より前に、承継で本当に難しいのは社長の判断基準を渡すことだと私は思っています。そちらは社長の頭の中を引き継ぐ方法にまとめました。


池田計画合同会社は、山梨県を拠点とする認定経営革新等支援機関です。代表の池田は、八十二銀行で法人融資の審査に長く携わったのち、中小企業診断士として独立し、事業承継・引継ぎ支援の現場にも関わってきました。株主の棚卸しと集約の段取り、承継の時期から逆算した計画づくり、金融機関への説明まで、審査する側にいた視点でご支援しています。「うちは特例に間に合うのか」「そもそも株が誰のものか分からない」という段階でも構いません。代表プロフィールと支援方針をご覧いただくか、初回無料の経営相談からお気軽にご連絡ください。税額の判断が必要な場面では、顧問税理士の先生と一緒に進めます。


よくある質問

医療法人や個人事業主でも使えますか?

法人版事業承継税制の対象になる「非上場株式等」に医療法人の出資は含まれません(国税庁)。医療法人には別に医業継続に係る納税猶予制度があります。個人事業主については、青色申告(正規の簿記の原則によるものに限る)で不動産貸付事業等を除く事業を行っていた事業者を対象に、個人版事業承継税制が用意されています。個人版は平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与・相続等が対象で、個人事業承継計画の提出期限は令和10年9月30日です。

先代が急に亡くなりました。特例承継計画を出していなくても、今から特例措置を使えますか?

相続開始が令和9年12月31日までで、都道府県への認定申請までに特例承継計画を提出できれば、可能性はあります。国税庁の資料には「贈与後でも、円滑化法の認定申請時までは特例承継計画を提出することが可能です」と明記されており、相続の場合も同様の考え方です。ただし相続の認定申請は相続開始後8か月以内なので、その間に計画の作成・認定支援機関の所見・都道府県の確認まで通す必要があります。相続開始の直前に後継者が役員であったことが原則として要件になる点にも注意してください(被相続人が70歳未満で死亡した場合などは例外があります)。

後継者を2人・3人にすると、何が変わりますか?

特例措置では最大3人まで後継者にできますが、人数が増えると要件も増えます。後継者が2人または3人の場合、各人が総議決権数の10%以上を保有し、かつ後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を持つ必要があります。一般措置は後継者1人のみです。なお、猶予は後継者ごとに走るため、報告や届出も人数分だけ管理することになります。兄弟で分けたものの経営方針が割れて動けなくなる例もあるので、議決権の設計は税制より先に決めておくほうが安全です。

猶予を受けている間に、会社が赤字になったり債務超過になったりしたら取り消されますか?

赤字や債務超過それ自体は確定事由ではありません。取り消しにつながるのは、株式の譲渡、後継者が代表権を失うこと、資産管理会社への該当、届出の未提出といった事由です。むしろ業績悪化は、特例措置の「事業の継続が困難な事由」に該当して税額の再計算・差額免除を受けられる方向に働く場合があります(過去3年のうち2年以上赤字、2年以上売上減、有利子負債が売上の6か月分以上などが該当事由として挙げられています)。

猶予されている税額は、銀行から見るとどう映りますか?

決算書には出てきませんが、金融機関が事業承継の状況を確認する過程で把握されることはあります。猶予税額は将来の偶発的な支払義務なので、それ自体で融資が難しくなるという性質のものではありません。ただ、自社株を担保に提供している場合は、その事実を含めて説明できる状態にしておくほうが話は早く進みます。融資の審査は返済能力を見るものであり、税制の適用可否とは別の判断です。決算書の説明のときに一言添えておく、くらいの温度感で十分です。

特例承継計画は、出したら必ず適用しなければいけませんか?

提出は適用の前提条件であって、提出したら必ず贈与・相続を実行しなければならないという義務ではありません。計画の内容に変更があった場合は変更申請書または報告書を都道府県に提出して再度確認を受けられますし、確認の取消しを申請する様式も用意されています。期限が令和9年9月30日で切れる以上、迷っている段階でも先に出しておくという判断は現実的です。実際、提出しておけば選択肢が残り、出していなければ特例措置の道は閉じます。

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