公開日:2026年8月7日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
決算月が近づくと、必ずと言っていいほど出てくる相談があります。「今期は利益が出そうなので、倒産防止共済に満額で入っておこうと思うのですが」。そのあとに続く言葉はだいたい同じで、「税理士さんに勧められて」です。
経営セーフティ共済とは、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったときに、掛金総額の10倍(最高8,000万円)まで無担保・無保証・無利子で借りられる中小企業向けの共済制度です。掛金は全額を損金(個人事業は必要経費)にできますが、解約したときの手当金は受け取った期に全額が益金になります。税金が消えるわけではなく、払う時期が後ろにずれるだけです。
私は金融機関で法人融資の審査に携わったのち、いまは中小企業診断士として資金繰りと融資のご相談を受けています。その立場で最初にお伝えしたいのは、この制度でいちばん実害が出るのは元本割れでも解約時の課税でもない、ということです。実害が出るのは、掛金で利益を薄くした決算書を、そのまま銀行に持っていってしまうときです。順に整理します。
経営セーフティ共済のデメリットは、結局どこにあるのか
デメリットは「入る前に判断できるもの」と「入ってから効いてくるもの」に分かれます。混ぜて並べると判断しづらいので、分けて置きます。
| いつ効くか | 内容 | 根拠 |
| 入る前 | 引き続き1年以上事業を行っていないと加入できない | 制度のしおり「1 加入資格等」 |
| 入る前 | 業種ごとの資本金・従業員数の上限を超えると加入できない | 同上 |
| 入る前 | すでに共済契約者である場合、重複加入はできない | 加入資格ページ |
| 入ってから | 掛金納付月数が11か月までに解約すると、支給率0%(掛け捨て) | 解約手当金の支給率表 |
| 入ってから | 40か月未満で任意解約すると元本割れ(支給率80〜95%) | 同上 |
| 入ってから | 解約手当金は受け取った期の益金・事業収入になる | 制度のしおり「解約手当金の税法上の取扱い」 |
| 入ってから | 掛金の分だけ現金が社外に出る(資金繰りは必ず悪くなる) | 制度の構造 |
| 入ってから | 共済金を借りると、借入額の10分の1に相当する掛金の権利が消滅する | 制度のしおり「共済金の貸付条件」 |
| 入ってから | 掛金総額800万円で積立てが止まる | 積立限度額 |
| 入ってから | 令和6年10月1日以降に解約すると、そこから2年間の掛金は損金・必要経費にできない | 令和6年度税制改正 |
数字はすべて中小機構の制度のしおり(令和8年1月改訂版)と制度の概要で確認したものです。制度解説の記事は改正前の内容が残っていることがあるので、金額と月数はご自身でも原典に当たってみてください。
ただ、こうして並べたデメリットは、どれも「知っていれば避けられる」ものです。避けにくいのはもうひとつ別のところにあります。制度そのものではなく、節税の道具だと思って入ることです。
なぜ「節税にならない」と言われるのか
掛金の損金算入は、税金を減らす仕組みではなく、課税を先送りする仕組みだからです。
掛金は月5,000円から20万円まで、5,000円単位で決められます。上限の月20万円にすると年240万円。法人税の実効税率をざっくり30%とすれば、その期の税負担は約72万円軽くなります。ここまでを見ると、たしかに効いています。
ただ、同じ期に240万円の現金が会社から出ています。差し引きすると、手元の現金は168万円減っていることになります。掛金を払った年に得をしているわけではありません。
| 掛金を払った期 | 解約した期 |
| 現金の動き | ▲240万円 | +240万円(40か月以上・任意解約の場合) |
| 課税所得への影響 | ▲240万円 | +240万円 |
| 税額への影響(実効税率30%で概算) | ▲72万円 | +72万円 |
4年積んで800万円まで貯めたとすると、解約した期には800万円がまるごと利益に乗ります。掛金を払った4年間は毎年240万円ずつ利益を削っていたのに、出口では一度に800万円が返ってくる。入口は分割、出口は一括です。この非対称が「節税にならない」と言われる理由です。
では意味がないのかというと、そうではありません。効くのは次の2つの場面に限られます。ひとつは、利益の山と谷がはっきりしている会社が、山の年に積んで谷の年に取り崩し、課税所得を平準化する使い方。もうひとつは、役員退職金や大規模修繕のように、まとまった損金が立つ年をあらかじめ持っている会社が、そこに解約をぶつける使い方です。
逆に言えば、出口の予定がないまま入るのは、税金の支払いを未来の自分に回しているだけです。この点は最初にお伝えするようにしています。「今期の税金が減ります」という説明の仕方をすると、数年後に「話が違う」となるからです。
掛金で利益を消すと、銀行からはどう見えるのか
ここは、私が金融機関側にいたので気になるところです。掛金を損金にすると、決算書の経常利益がその分だけ小さく出ます。
融資の審査では、返済原資をおおまかに「税引後利益+減価償却費」で見ます。年240万円を掛金に回して損金にすれば、この計算上の返済原資も、税引後の効果を差し引いた分だけ薄くなります。3期分の決算書を並べて返済能力を見る場面では、この差がそのまま借入余力の差になります。
もちろん、共済の掛金は解約すれば戻ってくるお金です。勘定科目内訳明細書や法人税申告書の明細から積立額を拾い、実態のバランスシートに戻して評価することもあります。ただ、担当者が必ずそこまで戻してくれる前提で決算を組むのは、私は危ういと思っています。決算書は、初めて見る人にも同じように読まれる書類だからです。
面談の場でよく申し上げるのは、こういう整理です。税金を払いたくないから経費を使い切る、という会社は、一定のところまでは伸びますが、そこから先で止まります。手元にお金が残っているように見えるケースも、よく見ると役員報酬として個人に移しているだけだったりします。税金を払ってでも会社に利益を残した会社のほうが、次の設備投資のときに融資が通ります。実際、設備資金の相談を受けて過去3期の決算書を拝見したときに、「この3年、利益をきれいに消してきましたね」という話から始まることは珍しくありません。
そこで、実務としては次のように順番を決めています。
- 2〜3年内に設備投資や借入を予定している→ 掛金の増額は急がない。月額は小さく始めて、投資が終わってから増やす
- 当面の大きな借入予定がなく、利益の波が大きい→ 掛金を厚くして平準化に使う価値がある
- すでに加入していて、これから借入を申し込む→ 掛金の積立総額を決算書の説明資料に書き添え、返済原資の話をこちらから先に出す
3番目は手間のわりに効きます。銀行が見ている指標そのものについては経営分析のやり方に、現金の動きを月次で押さえる方法は資金繰り表の作り方にまとめています。
いつ解約すればいいのか(40か月ルールと出口の当て方)
掛金納付月数が40か月に達すると、任意解約でも掛金が100%戻ります。そこまでは元本割れです。
| 掛金納付月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
| 1〜11か月 | 0% | 0% | 0% |
| 12〜23か月 | 80% | 85% | 75% |
| 24〜29か月 | 85% | 90% | 80% |
| 30〜35か月 | 90% | 95% | 85% |
| 36〜39か月 | 95% | 100% | 90% |
| 40か月以上 | 100% | 100% | 95% |
出典は中小機構の共済契約の解約です。任意解約は自分の意思で行う解約、みなし解約は死亡・解散・事業の全部譲渡などで自動的に解約とみなされるもの、機構解約は12か月分以上の掛金滞納などで中小機構側が行う解約を指します。
「40か月」は月数であって年数ではないので、頭のなかで年に直そうとすると1か月ずれます。2026年8月分から納付が始まった契約なら、40か月目は2029年11月です。加入した月をカレンダーに書き込んで、そこから39か月先に印を付けておくくらいでちょうどいいと思います。
そのうえで、解約する期は「まとまった損金が立つ期」に当てます。役員退職金を支給する期、大規模な修繕や設備の除却がある期、赤字が見込まれる期。ここに解約手当金の益金をぶつけると、出口の税負担が抑えられます。逆に、業績が最も良い期に解約すると、掛金で減らしてきた税金がそのまま戻ってくるだけになります。
もうひとつ、実務で効く注意点があります。解約手当金は分割で受け取れません。800万円積んだ契約を解約すれば、800万円が一度に入り、一度に益金になります。「少しずつ取り崩す」ことはできない前提で出口を設計してください。
令和6年10月の改正で何が変わったのか
解約してから2年間は、掛金を損金にも必要経費にもできなくなりました。制度のしおりの文言はこうです。
令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、再度共済契約を締結(再加入)する場合、その解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については、必要経費または損金の額に算入できません。
改正前は、40か月を超えたところで一度解約して満額を受け取り、すぐに入り直してまた損金を積む、という回し方ができました。この改正で、その回転運用は塞がれています。
気をつけたいのは、解約そのものが禁止されたわけではない点です。解約はできますし、支給率も変わりません。変わったのは「解約した直後に入り直したときの掛金の扱い」だけです。2年を待たずに再加入した場合、掛金は払うのに損金にはならないという、いちばん割の合わない状態になります。出口を当てる年を決めるときは、その先2年間の使い方までセットで考えることになります。
なお、この改正に触れているかどうかは、解説記事の鮮度を測る目安になります。今回の執筆にあたって「経営セーフティ共済 デメリット」の検索上位12件の見出し構成を確認しましたが、改正を見出しに掲げていたのは3件でした。読み比べるときの手がかりにしてみてください。
取引先が倒産したとき、実際にいくら借りられるのか
ここが本来の使い道です。ところが、条件を正確に知らないまま加入している方が多い部分でもあります。
共済金の借入れができるのは、次の4つをすべて満たすときです。
- 加入後6か月以上が経過し、かつ6か月分以上の掛金を納付している
- 共済契約者の直接の取引先事業者が倒産した
- その倒産により売掛金債権等の回収が困難になった
- 倒産日から6か月以内に貸付請求をしている
借りられる額は、「回収が困難となった売掛金債権等の額」と「掛金総額の10倍(最高8,000万円)」のいずれか少ないほうです。掛金総額が200万円なら、上限は2,000万円ではなく、回収できなくなった売掛金の実額が2,000万円を下回ればその実額になります。
そして、ここが誤解の多いところですが、「倒産」の範囲は決まっています。法的整理(破産・再生・更生・特別清算の開始申立て)、手形交換所または電子交換所での取引停止処分、でんさいネットでの取引停止処分、私的整理、災害による不渡り、特定非常災害による支払不能。しおりには次の注意書きがあります。
「夜逃げ」等は、本制度の取引先事業者の「倒産」には該当しませんのでご注意ください。
連絡が取れなくなった、事務所がもぬけの殻だった、という状態は制度上の倒産ではありません。中小企業の現場で実際に多いのはむしろこちらのほうなので、この線引きは知っておいたほうがいいと思います。対象になるのも売掛金債権と前渡金返還請求権であって、取引先への貸付金は含まれません。
そして「無利子」の中身です。
貸付けは無利子です。ただし、貸付けを受けた共済金の額の10分の1に相当する額が、納付した掛金から控除され、控除された額に相当する掛金の権利が消滅します。
1,000万円を借りれば、100万円分の掛金の権利が消えます。金利は付きませんが、借りた瞬間に借入額の10%が戻らなくなるということです。私は概算として、「5年で返す前提なら年2%前後の資金コストを先に払っている」くらいの感覚でお伝えしています。無担保・無保証で即日に近いスピードで動かせる資金としては悪くありませんが、無料ではありません。
返済の条件も押さえておきます。
| 貸付額 | 償還期間(据置6か月を含む) | 償還方法 |
| 5,000万円未満 | 5年 | 54回均等分割償還 |
| 5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 | 66回均等分割償還 |
| 6,500万円以上8,000万円以下 | 7年 | 78回均等分割償還 |
償還期日までに返せなかった場合は年14.6%の違約金がかかります。売掛金が飛んだ直後の会社にとって、5年で返す借入れは軽い負担ではありません。取引先の倒産に直面したときの打ち手の順番については資金繰りが厳しいときにやるべきことに整理しています。
取引先の倒産に出くわしたとき、最初に決めるべきなのは「いくら借りるか」ではなく「どの債権がいくら回収不能で、いつまでに請求するか」です。6か月の期限は、混乱している最中には驚くほど早く過ぎます。売掛金の回収不能が起きてしまった段階でのご相談は、お問い合わせフォームから取引先名・回収不能見込額・倒産の事実を知った日をお知らせください。初回のご相談は無料です。
それでも入る価値があるのは、どんな会社か
ここまで否定的に見えることを並べましたが、私は制度そのものは良くできていると思っています。判断の材料として、加入前に確認していただきたい項目を並べます。
- 売掛金の回収サイトが長く、特定の取引先への依存度が高いか(1社で売上の3割を超えるなら、それだけで検討する理由になります)
- その依存先が倒産した場合、いくらの売掛金が飛ぶか。掛金総額の10倍がその額に届くか
- 今後2〜3年で設備投資や新規借入の予定があるか(あるなら掛金は控えめに)
- 解約をぶつける年の目星が付いているか(役員退職金・大規模修繕・世代交代の時期)
- 掛金を払っても、月次の資金繰りに支障が出ないか
- 40か月を待てる見通しがあるか。11か月以内の解約は全額が戻りません
上の3つ目までが「入る理由」、下の3つが「入り方を決める材料」です。逆に、次のような場合は急がなくていいと考えています。取引先が個人消費者中心で売掛金がほとんど立たない会社、創業から日が浅く手元資金が薄い会社、そして「今期の利益を減らしたい」以外に理由が見当たらない場合です。
この制度は、税金の話として持ち出されることが多いのですが、本質は保険に近いものです。連鎖倒産を防ぐための備えとして必要かどうかを先に決めて、掛金の額を資金繰りと借入計画から決める。この順番で考えると、判断を誤りにくくなります。
池田計画合同会社では、決算前の資金繰りの整理、金融機関に出す決算説明資料の組み立て、借入計画と共済・保険のバランスの見直しをご一緒しています。私は元銀行員の中小企業診断士であって税理士ではありませんので、掛金の仕訳や申告そのものは顧問税理士の領域です。私の役割は、その手前で「借入をいつ、いくら申し込む予定なのか」から逆算して、利益をどこまで残しておくかを決めることにあります。山梨県内であれば訪問でのご相談も承ります。融資と資金繰りのご相談は融資・資金繰り支援サービスをご覧ください。
よくある質問
不動産賃貸業など、事業所得以外の収入しかない個人事業主でも掛金を必要経費にできますか?
できません。制度のしおりの税法上の取扱いには「個人事業の場合、事業所得以外の収入(不動産所得等)は、掛金の必要経費としての算入が認められませんのでご注意ください」と明記されています。加入自体ができるかどうかは業種・規模の要件で判断されますが、必要経費に算入できるのは事業所得に係る部分です。不動産所得だけで申告している方は、この点を事前に顧問税理士に確認してください。
掛金総額が800万円に達したら、その後はどうなりますか?
掛金の請求が停止され、中小機構から「掛金積立て限度のお知らせ」が送付されます。契約自体は続き、共済金の借入枠(掛金総額の10倍・最高8,000万円)も維持されます。以後は掛金を払わずに枠だけを持ち続ける形です。なお、共済金の貸付けを受けて掛金総額が800万円を下回った場合は、掛金の請求が再開されます。
取引先が倒産していなくても、お金を借りることはできますか?
一時貸付金という別の制度があり、事業資金(設備資金・運転資金)に使えます。ただし共済金の貸付けとは条件が異なり、有利子です。貸付限度額は掛金納付月数に応じて掛金総額の75〜95%に95%を掛けた額で、掛金総額が800万円の場合は760万円が上限です。利率は年0.9%(令和7年4月1日現在。金融情勢により変動します)で、利息は貸付時に一括前払い、期間1年の期限一括償還、担保・保証人は不要です。
小規模企業共済と両方に加入できますか。どちらを優先すべきですか?
両方に加入できます。目的が違う制度で、経営セーフティ共済は会社を守るための備え、小規模企業共済は経営者個人の退職金の備えです。掛金の税務上の扱いも異なり、経営セーフティ共済は損金・必要経費、小規模企業共済は個人の所得控除になります。優先順位は事業の状況によりますが、売掛金の焦げ付きリスクが具体的にあるなら経営セーフティ共済、経営者個人の引退後の資金が手当てされていないなら小規模企業共済から、という考え方で整理しています。
今期の決算対策として掛金を前納したい場合、いつまでに手続きが必要ですか?
掛金前納申出書(様式㊥214)を、前納を希望する月の5日までに中小機構が受理している必要があります。決算月の直前に思い立っても間に合わないことがあるので、2か月前には動いてください。前納した掛金は、前納の期間が1年以内であれば支払った日の属する年分または事業年度の必要経費・損金に算入できます。1年を超える部分は期間の経過に応じた算入です。なお、前納掛金の合計も800万円を超えることはできません。
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